第29話 面影
「成田と申します。このジムに通って2年以上になりますが、こういった会は初めてで緊張しています。仕事は不動産関係です。賃貸や売買物件をお探しの方は、気軽にお声がけ下さい。」
話し慣れているらしい様子、魅力的な笑顔は少しも緊張しているようには見えず、すらすらと挨拶していました。場慣れしていそうな佇まいに、やはり須藤のことを思い出させられました。
成田さん・・・初めて名前がわかりました。不動産関係と知り、なるほどと思いました。身なりも話しぶりも堂々としていて、大人の男性に映りました。ジムでのスポーツウェアも、ダークスーツを身にまとった外での服装もいずれも魅力的で、四方八方に強烈な磁力を放っているかのようでした。
いつも遠くからこっそり眺めていた気になる方でしたが、その強烈さにのみ込まれまいと必死に抗っていました。意識しすぎるあまり、少しもお話できないままに時間は過ぎてゆきました。
それでも、隣にいた方がお手洗いへ向かった時、成田さんは声をかけてくれました。
「ゆりか先生、でしたね?飲み物のおかわりはどうですか?何にしましょうか?」
思わず固まって彼を見返したものの、どきどきしてすぐに言葉が出ませんでした。内心焦りつつ、飲み物のメニューを探していると成田さんが手渡してくれました。
「ええと、赤ワインをいただきます。成田さんも何か頼まれますか?」
なんとか返事をしましたが、まだ彼の顔を見ることができませんでした。
「私はまだ、これが残っているけど・・・でもそろそろ頼みます。じゃあ私も同じ赤にしようかな。ワインがお好きですか?」
成田さんのグラスにはまだ半分以上もお酒が残っていたことに気付きましたが、ワインを頼んだ私に合わせてくれたかのようでした。緊張しているのを悟られたくありませんでしたが、気付かれていたかもしれません。
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