第28話 食事会

 その男性に近づきたいとか、話をしたいと思ったわけではありませんが、ジムへ行く時間帯が似通っていたのか、彼を見かけることがよくありました。


 正直に言えば、彼に興味をひかれていました。秘かに、遠巻きにその人の様子をうかがうようになりましたが、決して自分からは近づこうとしませんでした。彼が近くにいると気もそぞろになってしまうので、距離を置くようにしていました。私はその人に対して意識しすぎていたのかもしれません。


 そんな風でしたから、初めて参加したジム仲間とのお食事会に、例の男性が居合わせていたのは心臓に悪いことでした。参加者は5~6名と聞いていて、何人かの名前も顔もわかっていましたが、女性ばかりの会だと思い込んでいました。


 その会の参加者は聞いていたよりも多く、10名以上もいたようでした。男の人も半数近くいて知らない方も多く、私は気後れしていました。


 席はユキちゃんの隣にするつもりでしたが、仕切り屋らしき男性に促され、面識のない人とも交流できるようにと引き離されてしまいました。そうしてよりによって、なんの引き寄せなのか、全身から妖しいオーラを放ちまくる例の男性が私の真向かいに座っていました。


 心構えもなくそんな状況になってしまい、日頃から人見知りがちな私は動揺していました。正面にいる方を意識してはいましたが、恥ずかしくて目を合わせることもできませんでした。


 隣に座っていた辛うじて面識のあった方や、斜め向かいの方と話すことはあっても、向かいの男性と言葉を交わすことはできずにいました。


 最初の乾杯の後、幹事らしい方が参加の人々へ自己紹介をするように呼びかけました。皆さんそつなく話していましたが、人数も多く、知らない人はあまり覚えられませんでした。それでも例の男性の番になった時は、自分の時以上にどきどきしていました。

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