第26話 スポーツジム

「ゆりか先生、こんばんは!やっぱり今日もいましたね。早くから来ていたんですか?」


 ユキちゃんと京子ちゃんが紹介してくれたスポーツジムを、私はすっかり気に入っていました。入会してすでにひと月近く経っていました。時間があるので頻繁に通うようになっていました。


「日中も気になるクラスがあってね、午後のダンスにも出たの。家にいても腐っちゃうから、ほんとによい場所紹介してくれてありがとうね。」


 この日はユキちゃんの参加するメニューがあり、彼女の到着を待ちながらフィットネスゾーンで運動していました。退社後にやってくるユキちゃんや京子ちゃんより早めに来て、お出迎えするのも恒例になっていました。


「ゆりか先生、マシンの扱いもすっかり慣れましたね。最初の頃は、むやみにボタンを連打しているのを目撃したものですが・・・」


 よくサポートしてくれるスタッフの男性が声をかけてきました。初日の見学の時に案内してくれた方で、何度も通っているうちによく話すようになりました。ユキちゃんや京子ちゃんが私を「ゆりか先生」と呼ぶせいか、他の人にも同じように呼ばれることがありました。


「藤田さん、いつもゆりか先生をチェックしてますよね・・・ゆりか先生のいるところにあらわれる・・・パーソナルコーチなんですか?」


 ユキちゃんは小声でひそひそと言いました。藤田さんには聞こえていなかったかもしれません。


「パーソナルコーチは高くて頼めないけど・・・マシン壊さないか見張られているのかも?でも優しいよね。」


 私も小声で答えました。スタッフの藤田さんは、入会した頃からあれこれと世話を焼いてくれました。


「私もずっと来てましたけど、そんなにお世話されてませんでしたけど。ゆりか先生、すっかり人気者ですね。ジムの方達とも、新しい英語のクラスができるんですよね?」


「そうなの・・・とりあえずはおためしでレッスンを受けてもらって、来月からの予定だけど。ユキちゃんと京子ちゃんがいつも宣伝してくれるおかげだよ。ほんとにありがとうね!」


 このスポーツクラブに来て以来、ユキちゃんや京子ちゃんが同じクラスに通う仲間に紹介してもらう機会も増え、英語を教えて欲しいと声をかけてもらえるようになっていました。


「ゆりか先生のお役に立てたらなによりです!来週のお食事会、ゆりか先生も来るんですよね?」


 ユキちゃんの仲良くしているジム仲間たちと、何人かで飲みに行こうという話があり、私も混ぜてもらえることになっていました。


「うん、おかげさまで私も少しずつ覚えてもらえてるみたいで・・・やっぱりユキちゃんや京子ちゃんがいろんな人に紹介してくれるから、楽しく通えてるよ。誰も知らなかったら、こんなにすぐに馴染めなかったと思うし。」


 私は自分から知らない人に声をかけるのは苦手でしたが、いちど顔見知りになるとお話するのは平気になりました。


「ゆりか先生、そんなことないですよ。戸田さんとか、野村さんとか、ファンがいっぱいじゃないですか。ゆりか先生っておじさん受けしますよね?」


「うん・・・?前に勤めていた会社もおじさんだらけだったから、おじさんを馴染ませる、何かが染みついているのかも・・・?」


 多少自覚はありました。私自身はいろいろあったせいか、男性とは距離をおきたい気持ちでした。


 ですが実は、そのスポーツジムの中で、ひとりだけ気になる人物がいました。初めてその人を目にした時、ただならぬその雰囲気に、強い印象を受けました。

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