第25話 見学日

「あれ?ゆりか先生・・・?一瞬わかりませんでした。黒い髪かわいい!」


 火曜日の夕方、待ち合わせをしていた場所で、私はすぐにユキちゃんに気付きましたが彼女はすぐそばへ行くまで私だとわからなかったようです。


「ストレートにしたんですね。似合う・・・なんか若くなった!」


 評判は上々で、気をよくしました。


「ありがとう。もともとは黒い髪が基本だったの。これまではちょっと色気づいてたけど・・・でも黒い方がラクだよね。」


「色気づくってなつかしいんですけど。中学生じゃないんだから・・・でも、黒いのもかわいいですね!」


 ユキちゃんが笑いました。


「そうね。一時は非行に走っていたからね・・・更生したの。」


「先生、茶髪が不良っていつの時代ですか。昭和なんですか・・・?じゃあ、私も不良じゃないですか。黒くしないとダメですかね?」


 いつもユキちゃんは明るい栗色のカラーがよく似合っていました。


「いや・・・最近は黒髪の方が少数派かもね。でも私、黒い方が好きだったかも。茶髪はたまたまね・・・」


 ヘアスタイルを不倫相手の好みに合わせていたことも、自分らしくありませんでした。その頃は、たしかに非行に走っていたとも言えました。道徳に反することを続けていました。


 ですが髪を切り、須藤に対する未練も卒業しようと努力していました。


「京子ちゃんは直接ジムに来るそうですから行きましょうか。」


「うん。温泉楽しみなんだけど。」


「先生、そればっかり・・・ちゃんと運動もしましょうよ。」


「うん、そうね・・・まずは見学ね。」


 スポーツジムは街の中心部にありました。昼間は主婦やご年配の人々が多く、夕方以降は会社帰りの方達の利用が多いということでした。


「こんばんは。ほら、連れてきましたよ。私の英語の先生。勧誘したらホイホイ来てくれました。ゆりか先生っていうんです。」


 ユキちゃんは受付の男性に声をかけました。


「ありがとうございます!ユキさんやり手ですね。じゃあ、ゆりか先生、まずはこちらにご記入下さい。それから案内しますので。私は藤田と申します。」


 藤田さんは若くて親切そうな方で、爽やかな笑顔で挨拶をしてくれました。ユキちゃんとも親しそうに言葉を交わしていましたが、人見知りの私は急にテンションが下がってしまいました。女性ならまだ良かったのですが、知らない男の人はとりわけ苦手でした。


「はじめまして、桜井と申します・・・じゃあ、ユキちゃんも一緒にお願いします・・・」


「えっ、ゆりか先生、私も案内してもらうんですか?もうメンバーですけど。」


 ユキちゃんは意外そうな声でした。呆れたような響きもありました。


「ユキちゃんが案内してくれるんだと思ってた・・・」


 小さな声でぼそぼそ言うとユキちゃんも小さく笑いました。


「え~、係の人じゃないんですけど。でもいいですよ。私もいないとダメなんですね。もう、ゆりか先生、急におとなしくなりますね・・・もうすぐ京子ちゃんも来るから頑張りましょうよ。」


 テンションが落ちていたせいか、ユキちゃんに励まされてしまいました。


「そうですか、ゆりか先生は京子さんもご存じなんですね。ユキさんと京子さんならお友達も多いから、楽しくできると思いますよ。私もこの時間帯はいつもいますから、わからないことがあったらなんでも聞いて下さいね。」


 スタッフの男性がまた声をかけてくれました。


「はい・・・ありがとうございます。こちらこそ、よろしくお願いいたします。」


 このところ、あまり多くの人と会っていなかったので外の世界にブランクを感じました。新しい環境に少しずつ慣れてゆきたいところでした。

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