第24話 勧誘
「もう、みんなでおいしいものを食べたり飲んだりでほんとに幸せ・・・!ぜひ、恒例の会にしようね。でも食べて飲んでばかりだと体重が・・・会社やめたから太っちゃったかも・・・ダイエットも気になるけど・・・」
私はほろ酔い状態で上機嫌でした。体重が気になると言いつつ食べる手を止めないのはもはや業であったかもしれません。
「ゆりか先生、スポーツや習い事はしていないんですか?」
未央ちゃんに尋ねられました。
「うーん、私は文化系だから・・・運動した方が良いとは思うんだけど、運動音痴なんだよね・・・みんな、何かやってるんだっけ?」
「私はフラメンコ習っていて。もう2年くらいになりますかね。」
未央ちゃんは月に何度か、街中の教室に通っていると聞いたことがありました。いつも感じることですが、生徒さんたちは語学を学ぶのみならず、いろいろな特技をお持ちの方が多いのでした。
「私と京子ちゃんの通っているジムも楽しいんですよ!会社帰りに行けるし、ヨガとかズンバとか、いろんなメニューに出られるし、お風呂も入れるから家に帰った後ラクなんです。」
ユキちゃんと京子ちゃんは共通のスポーツジムに通っていました。勤めていた頃も、職場の人にジムの話を聞いて興味を覚えたことがありました。ですが私は平日の退社後も英語の仕事や、土日も須藤と会うので通うのは難しそうだと諦めていました。
「そうだった。いろんなプログラムがあるんだよね。ダンスもあるんだっけ?前から気になっていたんだけど、もしかしたら今なら行けるかも・・・」
「ゆりか先生、いまお勤めじゃないからちょうど良いんじゃないですか?行きましょう!紹介特典もあるし、ユキちゃんと私もいるから一緒にダンスのクラスに出ましょうよ!」
京子ちゃんからも熱心に勧められました。前から彼女たちからもジムのことを聞いていて、気になっていました。
「え~・・・どうしよう・・・すごく行きたくなってきたけど・・・でも失業中なんですけど・・・」
そう答えつつも、彼女たちの通うスポーツジムへ興味津々でした。この頃は、そういった場所へ好きなだけ通うことのできるチャンスでもありました。退職金や須藤からの手切れ金などまとまったお金もありましたから、半年や1年ならば会費も余裕で支払える程度の蓄えはありました。
「スポーツ得意じゃなくても、ヨガとかストレッチとか、ゆるい系もあるんですよ。同じクラスに出ているとお友達もできて、仲間に会えるのも楽しいですよ。」
京子ちゃんはすでに1年ほどは通っているらしく、その魅力をあれこれと語り出しました
「先生、家でお風呂入ってもガス代がかかるし、お風呂だけでも節約できますよ。私なんて出たいクラスのないときは、お風呂会員のときもあるし。」
ユキちゃんもひとり暮らしをしていました。彼女は京子ちゃんに誘われ、数か月前から入会していたようでした。
「あそこは天然温泉ですし、広いお風呂気持ちいいですよ~」
京子ちゃんが、気になる発言をしました。
「温泉・・・?温泉にも入れるの?なんかすごく惹かれるけど・・・そうね・・・いいかもしれないね?」
スポーツうんぬんよりも、温泉という響きにさらに心を掴まれていました。
「ゆりか先生もジム通うんですか?いいな~私も行きたくなってきた・・・でもフラメンコと料理教室も行ってるし・・・もういっぱいだしなぁ・・・」
未央ちゃんが悩ましげに呟きました。
このところの生活を振り返ると、家にいるよりもどこかへ通う方が精神的に良さそうな気がしました。会社を辞めてからは心も病んでしまい、部屋を散らかし放題にして寝てばかりいた前科もありましたから、ヨガやダンスのクラスに参加したり、ユキちゃんや京子ちゃんに会って、温泉に浸かったりする方がずっと健全に思えました。
「ゆりか先生、私か京子ちゃんの行く日に合わせて体験に来てみますか?」
ユキちゃんは楽しげに声をかけてくれました。
「うん。もう入会しようかな。体験しなくていいから、明日申し込んでくる。」
私はすでに心が決まり、翌日から通う気まんまんになっていました。
「え?先生、決断早すぎだし・・・ちゃんと一緒に行きましょうよ。日曜はお休みの時もあるので、平日の夜でしたら合わせますよ。」
ユキちゃんが笑いながら言いました。休業日等もあるようで、翌日からの温泉生活はくじかれてしまいました。
「なんだ・・・じゃあ、明日は美容院でも行こうかな。髪がね・・・明るい色だと染め直すのが面倒だから黒くしようと思って。気分転換になりそうだし。」
ついでに髪を切りたいと思い付きました。これまでは須藤の好みに合わせていましたが、茶髪のパーマはもうやめて、黒髪に戻そうと思いました。
「ゆりか先生、髪型変えるんですか?それも楽しみかも!」
京子ちゃんに声をかけられモチベーションが上がりました。
「じゃあ、明日は髪を切ります。その後ジムは、ユキちゃんか京子ちゃんが行く日に一緒に行こうかな。」
せっかくなので、彼女たちに合わせて見学、体験とやらをためすことにしました。
「じゃあ、火曜日はどうですか?私も京子ちゃんも出ているプログラムがあるので。仲間も紹介しますよ。」
「ありがとう!それじゃ火曜日、楽しみにしているね!」
すごく成り行き的ではありましたが、髪型を変えたりスポーツジムへ通うことは、生活を新しくする良いきっかけに違いありませんでした。
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