第23話 再生
レッスンは滞りなく終わり、お待ちかねのティータイムが始まりました。生徒さんが持参してくれたケーキやチョコレート、前日に作っておいたスイートポテトもありました。スイーツを並べると気分が盛り上がりました。
生徒さん達が家に来るのはとびきり楽しい時間でした。私は女性同士で過ごすのが好きなので、女の子達で募っておしゃべりをするのは至福のひとときでもありました。
お茶と甘いものを頂きながら何時間もおしゃべりをして、夕方になると鍋の準備をしました。近所のスーパーでは質の良い道産豚肉が売っていて、この日は豚しゃぶ鍋にしました。
準備はごく簡単なものでした。鍋にお湯を沸かして薄めのだし汁を作り、切ったネギともやしを軽く煮た後、薄切りの豚ばら肉とニラ、とうふ等を投入しました。ポン酢やごまだれなど、各自好みのタレをつけていただき、後半はうどんを煮ました。
京子ちゃん手作りのキッシュや、ユキちゃんのお土産のワインとチーズ、家で準備していたビールやおつまみ等もいただきながら、おいしいものが沢山の飲み会になりました。
そのように過ごしていると、本当に生き返ったかのような気分になりました。
こんな風に、この部屋で多くの友人と過ごすようにしようと思いました。須藤ではない誰かと、ここで新しい時間を過ごそう。
かつての夫、貴之と別れ、念願のひとり暮らしを始めたこの部屋も、いつしか須藤の別宅のようになっていました。週末のたびに、あるいは平日の夜、この部屋を訪れる須藤へかいがいしく尽くしていた頃もありました。
ですが彼はもう過去の人なのだと、腑に落ちた気がしました。これからは自分の好きな人、仲良くしたい人だけを招いて新しい時間を積み重ねてゆこうと思いました。
ほんの2、3日前までは汚い自宅で死にそうになっていたことが嘘のようでした。ずっと体調がすぐれないと感じていましたが、ようやく部屋が片付き、沙也と会い、レストランで美味しい食事をしたり、家で料理や整頓をしていたら夜もぐっすりと眠れました。
空間がきれいになると、心も晴れるものなのかもしれません。部屋が乱れると心も乱れる、とは聞いたこともありましたが、自分に関してはこれほどまで顕著に精神に影響があったのだと思い知ることとなりました。
須藤と別れ、正職員の仕事を失い投げやりになっていました。ですが私には友人や好きな仕事、慕ってくれる生徒さんたち、まだたくさんのものが残されていました。その存在に、どれほど救われたことでしょう。やはり人とのつながりに、人は救われるのかもしれません。
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