第22話 須藤の跡
「じゃあ、ここです・・・古い建物だけど・・・良かったら、ゆっくりしていってね。」
最寄り駅で待ち合わせをした生徒さんたちを自宅まで案内しました。
「やった、ゆりか先生のおうち、とうとう来れた~!!」
「先生、これ、スイーツ買ったから冷蔵庫で冷やして下さいね。」
「私はキッシュを作ってきました!あとこれはチョコレートです。」
「先生、私はワインとチーズにしました。あとでゆっくり頂きましょう。」
生徒さん達からたくさんのお土産を頂いてわくわくしました。もう英語のレッスンはやめて、さっそく飲んだり食べたりしたい誘惑にかられましたが辛うじてこらえました。
「みんな、こんなにたくさん・・・どうもありがとう!今すぐ頂きたいところだけど、申し訳ないけど、レッスンを先にしようね・・・?」
これから勉強するなど、とても野暮なことのように思われました。
「もう~ゆりか先生、そりゃそうですよ。そっちも楽しみにしてますから!」
未央ちゃんが笑いました。来年は海外旅行の予定もあるとのことで、いつも高いモチベーションで授業を受けてくれていました。
「あれ、ゆりか先生のとこ、食器洗い機があるんですね。すごい、一人暮らしなのに・・・」
キッチンのそばにいた京子ちゃんに声をかけられました。独身で食洗器を使う人は少数派かもしれませんでした。
「ああ、たまに、お客さんが来たりしたら洗い物するのに便利だしね・・・うん、けっこうラクだしおすすめだよ。」
須藤と付き合い始めた頃、この家で食事をした後、洗い物をする私の手間や時間を気にして購入してくれたものでした。ひとり暮らしの身には贅沢かもしれませんでした。
「エアコンもあるし・・・うちはないですよ。初めからついていたんですか?」
ユキちゃんにも尋ねられました。彼女も一人暮らしをしている方でした。
「ああ・・・まあ、どうしても必要ってこともないかもだけど、親がつけてくれて・・・最近は北海道も、夏はけっこう暑いもんね。」
須藤が購入し取付け工事まで手配してくれたエアコンでしたが、つい嘘をついてしまいました。
「冷蔵庫も家庭用みたいに立派だし、テレビも大きいし、もしかしてゆりか先生、家電好きなんですか?だいぶお金かけてますよね・・・?」
前日、須藤からのプレゼントの大半を処分したつもりでいましたが、生活必需品や家電品もよく買ってもらっていました。これらはすでに生活に密着した品々で、処分することはできませんでした。まだこの家には須藤の形跡がいたるところにあるものかと改めて感じましたが、生活用品に関しては、買ってもらったことを忘れ気味でもありました。
「うん、そうね・・・たまに、ボーナスの時とか、そういうの買ったりしたかもね・・・?」
少々決まり悪く思いつつ、また嘘をついてしまいました。沙也ではありませんが、さんざん須藤に甘やかされ、贅沢にも慣れてしまっていたので、失業しているこれからは気を引き締めなければと思いました。
「ゆりか先生、お金持ちですね~もしかして、パパでもいるのかな・・・?」
いたずらっぽく未央ちゃんに言われましたが、平静を装いました。
「お金持ちのパパがいるに越したことないけど・・・残念ながら、頑張って働かなくちゃね。さて、それではそろそろレッスンにしましょうか?その後、いろいろ食べたり飲んだりおしゃべりしましょうね?」
生徒さんたちは声を弾ませて返事をしました。
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