第19話 沙也の到着

 ある程度掃除がはかどり、一息ついていると部屋のインターホンが鳴りました。時間は10時半になっていて、沙也は予告していた時間どおりに到着しました。


「おはよう。なんか、悪いね・・・突然来てもらっちゃって。」


 玄関のドアを開けながら彼女を迎え入れました。


「おはよう~お邪魔します。優理香の部屋、どんなことになってるの?っていうか、え・・・?全然キレイなんだけど。」


 沙也は腑に落ちないといった表情で私を見ました。


「うん・・・昨日から頑張って片付けたの。ほら私、やればできる子だから。」


 すまして答えましたが、沙也は怪訝な顔をしました。


「え、なんで・・・?手伝いにきた意味ないし。散らかってたとか、ウソついてたんじゃなくて?」


「まあそれはいいじゃない。久しぶりに会ったんだし、お茶でも飲もうか?コーヒーか、カフェオレか、紅茶とハーブティーもあるよ。」


 私はキッチンへ向かい、カップを準備しながら声をかけました。


「うーん、なんかいつもと変わんないね・・・なんだ、優理香がどんなに病んでるのかと思って心配したじゃない。」


 沙也は安堵したような顔になりました。


「いや、ちょっとは病んでたけど・・・まあでも、大丈夫かな。」


 軽く答えましたが、昨夜は追い詰められ、泣きながら片付けをしていた自分を知っているので少々複雑な気持ちでした。


「とりあえず、部屋は想像してたのと違ったな。優理香の汚部屋、怖いもの見たさだったのに。1日中大掃除かと思って、お昼も買ってきたんだよ。」


 沙也は、彼女の住んでいる界隈にあるベーカリーの袋を差し出しました。


「わぁ~ランチまで買ってきてくれたの?ここのパン大好きだよ!なんか悪いね・・・」


 袋の中を覗き込むと、数種類のサンドイッチや、甘そうなデニッシュなど、いろいろと美味しそうなパンが見えました。


「ほんとに世話が焼けるんだから・・・結局私に会いたかっただけじゃないの?散らかってるから助けてとか、新手の詐欺じゃん。優理香もけっこう油断ならないよね・・・」


 沙也は呆れ顔で、こぼすような口調でした。


「いや、ほんとに散らかってたってば・・・」


 せっかく急いで片付けたのに文句を言われるならば、もう少し散らかしたままにしておけば良かったのかと頭をよぎりました。


「うん、全然いいんだけど。せっかく創太も預けたし、今日は身軽にくつろいでいこうかな。優理香のとこの方が居心地良いしね。うちなんか、もう子供のモノやおもちゃとかあれこれ、いくら片付けてもキリがないから・・・私も息抜きにちょうど良かったよ。」


 沙也は明るい口調になって告げました、彼女も日頃は子育てに忙しくしていたことを思い出しました。


「そうだった、わざわざ創太のこと預けてくれたんだよね。ごめんね・・・」


 一時保育なども、きっと費用もかかるはずでしたし、申し訳ない気持ちになりました。


「それはいいの。時々使ってるし。旦那の会社の補助もあったりして、割と気軽に使えるから。創太がいたらゆっくり優理香と話せないじゃない。そういえば、会社も辞めちゃったんだっけ。今日はいろいろ聞かせてもらうからね!」


 沙也は部屋のソファーに腰を下ろしました。私も久しぶりにまともな部屋になり、沙也と再会できて気持ちが軽くなっていました。

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