第18話 夜明け

 いつの間にか、部屋が薄明るくなっていました。私は寝室の床の上でゴミの片付けをしながら須藤のことを思い出し、涙にくれ、どれほど泣いていたのでしょうか。泣きながら作業をして、また泣いて、やがて眠ってしまったようでした。


 寝ぼけつつ、ベッドの上の布団を引いて自分にかけたようでした。腕や背中が奇妙にきしむ感じがしました。床の上で寝たりせず、ベッドで眠れば良かったと思いました。


 時計を見ると朝の8時でした。このところずっと、昼近くまで眠ってばかりだったので奇蹟的なほどの早起きでした。


 今日はゴミを捨てられる、と思いました。ちょうど一般ごみの収集日の朝でした。ずっと午前中は起きられなかったので、ごみを捨てたくても収集時間に間に合わない有様でした。


 近隣のごみステーションへ何往復もしながら、自宅にたまったゴミ袋を運び出しました。まるで引っ越しでもするかの如く、ぞっとするほどの量でした。それでも捨てることに調子がつくと、まだまだ処分したいものは多くありました。最後のゴミ袋を運び終えると、コンビニへ出向き新しいゴミ袋を買い込みました。


 コンビニで朝食とゴミ袋を買って戻ると、自宅が見違えたようにすっきりと片付いて見えました。しばらく汚部屋暮らしが染みついていたので元の部屋の様子に軽い衝撃を受けました。


 季節はすでに冬の寒さが厳しくなっていましたが、私は窓を開けました。外の空気を入れたいと思いました。ひやりとした冷気を部屋に迎えいれると、ふたたび片付けへのモチベーションが上がりました。


 朝食前にお風呂に入ることにしました。恥ずかしながら、その頃は英語のレッスンがなければシャワーやお風呂に入るのも億劫で、数日入浴しないこともありました。


 熱いお風呂に浸かると、沈んで澱んでいた心まで洗われるような気がしました。よく温まって気持ちがすっきりすると、沙也が来るのでもっと部屋を綺麗にしたいと心がはやりました。


 お風呂から出ると、私の動きはますます軌道に乗りました。久しぶりにテーブルの表面や床面があらわれて風通しの良くなった部屋は喜んでいるようでした。


 こまごまとした不用品をさらにゴミ袋へ捨てながら、ほこりの積もった部分に掃除機をかけ、水拭きしました。しだいに部屋がきれいになるので張り切っていました。


 おぞましかった汚部屋空間はだいぶまともになっていました。


 沙也が来るまでに、できるだけ綺麗にしよう。掃除を終わらせてしまおう。沙也が来るまでに・・・


 自動的に心がはやり、作業に拍車がかかりました。古布であちこちを水拭きしました。しだいに部屋の中の空気が浄化されてゆくように感じられました。

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