第16話 泣き言
「どうしよう・・・どうしよう・・・ちょっと、やばいんだけど・・・」
私はどうにも追い詰められて、参っていました。
「家がやばいの、汚部屋なの・・・あさって、生徒さん達が来るのに終わってるんだけど・・・」
私は携帯を片手に沙也に泣き言をこぼしていました。グループレッスンの生徒さん達の来る日が近く迫っているのに、部屋の片付けはまるではかどっていませんでした。
「いつも、出かけた時には部屋を片付けたいって思うのに、帰ってくると散らかりすぎててやる気なくしちゃって・・・どうしよう・・・」
我ながらどうしようもない人だと思いましたが、散らかりすぎた部屋に絶望し、途方にくれ、学生時代からの友人である沙也に電話をかけてしまいました。
「もう、優理香・・・久しぶりに電話来たと思ったら・・・なにそれ。」
少しの間を置いて、呆れたような、軽く笑うような沙也の声がしました。
「どうしたの?前はそんなことなかったのに。優理香が散らかしてるなんて珍しいよね。何かあったの?」
沙也とは半年以上も連絡を取っていませんでした。彼女が子育てで忙しいことは承知していましたし、私も須藤との不毛な関係に心病んでいて、自分から声をかけることができないままでいました。
「うーん、なんか、何から話していいのかわからないんだけど・・・そうね、仕事辞めたことは言ったっけ・・・?」
確か、伝えていなかったはずだと思いながら尋ねました。
「え、優理香、会社辞めちゃったの!?どうしちゃったの?待遇良いみたいだったし、営業も頑張ってると思ってたのに・・・大丈夫なの?」
沙也の声色が変わりました。なぜだか心崩れそうな気持ちでした。
「うーん、わかんない・・・なんか、もうダメだと思って・・・早期退職の募集に乗ってやめちゃったの・・・それで、会社辞めてから、もっとダメダメになっちゃってて・・・部屋もすごく散らかすようになっちゃって・・・なんでだろう?」
夜中近い時間でした。子育て中の友人にこのような電話をかける自分はさぞはた迷惑な人間とわかっていましたが、沙也の声を聞いてしまうとどんどん弱音がこぼれてしまうのでした。
「じゃあ、優理香、日中は家にいるってこと?昼間に会えるの?」
沙也の口調が変わりました。
「うん、まあ、そうだね・・・夜とか土日は英語のレッスンをする日もあるけど、平日の昼間は基本的には空いてるよ。ハローワークに行かなきゃいけない日もあるけど・・・」
そして、たいていの日は廃人のように過ごしているけど・・・と心の中で付け加えました。
「なんだ、そうだったんだ。もう~早く言ってよ!昼間だったら会いやすいのに。優理香、明日は予定あるの?」
沙也から意外そうな声で尋ねられました。
「ううん・・・でも、明日こそ部屋を片付けなきゃだし・・・沙也は創太もいるでしょ。私も会いたいけど、明日はだめかな・・・」
沙也と会って話したいのはやまやまでしたが、私は声を落としました。
「明日、優理香の家に行って、片付け手伝ってあげる。創太は一時保育に預けるから。」
思いがけない沙也の言葉でした。
「えっ、いいよ、そんなの、悪いし・・・それに、この部屋見たらドン引きするよ・・・大げさじゃなく、気軽に手伝えるレベルじゃないから・・・」
再び自室を見回しながら、青ざめたような気持ちになりました。
「だって、あさって生徒さん達が来るんでしょ?片付けられなくて困ってて電話したんでしょ?」
沙也の言葉はもっともでしたが、沙也に片付けを手伝って欲しかったわけではなく、ただ途方にくれて泣き言を言いたかっただけでした。
「うん・・・でも、もう無理・・・生徒さん達には、風邪ひいたとか、お腹痛くなったって言おうかな・・・」
我ながら最低だと思いました。
「もう、優理香、何やってんの!そんなのダメだからね!明日、10時半頃には行けるから、一緒に片付けるよ!今日はもう寝なさい。私も寝るから。じゃあね。」
「待って、沙也・・・」
言い終える前に、沙也はさっさと電話を切ってしまいました。
そうなってしまって、彼女に電話をする前よりも慌てていました。
どうしよう、どうしよう・・・こんな部屋、沙也に見せられない・・・!誰にも見せられるわけない・・・
この部屋を生徒さんには見せられないけど、沙也に見られるのはもっと嫌かも・・・絶交されるかも・・・?
電話なんてしなければよかった・・・!
後悔先に立たずというものです。先ほどとはまた別の危機感に襲われていました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます