第11話 訣別

 ひどい言葉をぶつけた後、しばらくの沈黙がありました。

 聞こえていたはずだけど、と思いました。


「・・・何、言ってるの?・・・冗談だよね?結婚していた時、優理香にいろいろ不満があったっていうのはわかるよ・・・あの頃の俺は自分でも、ひどい事をしたと思ってる。だけどまた一緒になれるのなら、改めるつもりだったよ。これからは、優理香を大切にしていくつもりだった。


・・・でも、愛人とか、どういうこと・・・?」


 やっと口を開いた貴之は、わけがわからないといった口調でした。混乱したような彼の表情に冷ややかな勝利の気持ちを抱いていました。


「愛人になった・・・?」


「だから、そういうこと。貴之と、お金をもらって付き合うのなら構わないけど、パスタも作ってもいいけど、結婚とか家庭とか、ごめんだから。もう昔の私とは違うの!」


 吐き捨てるように、たたみかけるかのように告げました。


 しばし貴之はショックを受けていた様子でした。いろいろと考えていたのか、しばらく沈黙したままでした。


 黙り込む彼を放置したまま着替えを済ませ、私は帰り支度をしていました。気まずい静寂に包まれようと、意に介しませんでした。


「なんだ・・・どこまでも落ちぶれていたんだな。どこか変わったと思ってたよ。まさかそんな、金のために愛人になるとか・・・」


 ようやく口を開いた貴之は、耐え難いとでもいう風に、汚いものでも見るかのように罵りました。


「早く出て行けよ。時間の無駄だったな・・・」


 そう漏らす貴之の顔は苦々しげにゆがんでいました。もしかすると泣き出すのではないかと思えたほどでした。


 私はもとよりすぐに帰るつもりでした。


「つきまとっていたのはそっちでしょう。もう二度と連絡してこないで。」


 氷よりも冷たくあの人を見返し、捨て台詞をぶつけました。私は足早に部屋をあとにしました。これでやっと切れるだろうと思いました。

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