第5話 元夫

 電話を切った後、少し億劫おっくうでしたがテーブルの上のノートパソコンを開きました。部屋が散らかり放題で、いろいろ物が積み重なって埋もれ気味でした。貴之とは会社の携帯で連絡を取っていましたが、彼のメールやその他の連絡先は以前にも渡されていました。


 電話をするのはしゃくでしたから、メールのみで連絡しようと思いました。連絡先のアドレスを送り、会社に問い合わせをするのはやめてもらいたいという旨をなるべく丁寧に知らせました。


 一度そのようにメールをすると、貴之からはすぐに返事が来ました。彼とはほとんどメールで話したことはありませんでしたが、いくぶん感傷的な文章だと感じました。


 私が退職したことにも驚いたが、自分は何も知らされていなかったのがショックだったとか、私に信頼されていないと感じた、彼のことを頼りにしても構わなかった、現在私がどのように過ごしているのか心配している、等あれこれと書かれていました。


 私はなにやら温度差を感じていました。貴之は、私にとってはもう過去の人なのに、彼はいまだ私に対しての距離感を勘違いしているようにも思えました。


 それでも時間を持て余していた私は、貴之とメールのやりとりをするようになりました。メールの良い点は自分が返事をしたくなければ、無視すれば良いという思いもあって彼にはメールアドレスしか知らせませんでした。


 それなのに、なぜだか以前よりも、かえって貴之と連絡を取り合うことが多くなったように思えました。彼は繰り返し会うべきだと強調しました。私は曖昧な返事を返していましたが、貴之は妙に熱心でした。


 少しずつですが、このように落ち込んだ自分に働きかけてもらえるのは、有難いことかもしれないと心が動くようになっていました。何度もやりとりをするうちに、ある時私はとうとう彼の誘いに応じる気持ちになりました。

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