第3話 報せ

 夕方近い時間でした。ソファーに寝そべりながら、テレビのワイドショーをぼんやりと眺めていました。興味ある話題でもありませんでしたが、日々このように無為に過ごしていました。


 そんなだらけた時間の中、携帯の着信音が聞こえたときはぎくりとしました。基本的に電話をもらうことは、ほぼありませんでした。もしかするとあの人だろうか、と思わずにはいられませんでした。


 ソファーから起き上がり、緊張しながら携帯を見ると元同僚の真矢ちゃんでした。肩透かしのようで怪訝けげんに思いつつも、急いで電話に出ました。


「・・・もしもし。」


 少し緊張した声だったかもしれません。勤めていた頃、真矢ちゃんとはよく話しましたが、会社の外で会うことはほとんどありませんでした。


「ユリさん、ご無沙汰です、お元気でした?会社から解放されるってどんな気持ちなんでしょう?こっちはすっかり人数も減っていまだ混乱中ですけど・・・ユリさんは優雅にすごしているんでしょうね?」


 元気そうな真矢ちゃんの声がしました。半ば羨むかのような彼女の言い草に微妙な気持ちになりました。辞めたくて辞めたわけじゃないのに・・・と心をよぎりましたが、彼女には知る由もないことでした。


「そんな、全然優雅でもないかな。毎日だらだらしちゃって良くないね。今もテレビのワイドショー見てたの。ダメ人間まっしぐらだけど・・・」


 苦笑いしつつ答えました。そんなに社内の人数が減ったのなら、内勤のポジションに空きはなかったのだろうかとも気になりましたが、もう自分には未練を持とうが仕方のない話でした。


「もう、そういうのを優雅って言うんですよ!平日午後の番組、私だって見てみたいです。こっちは会社の雰囲気も変わってしまって、ギスギスしていますよ・・・もうユリさんとバカな話もできなくて淋しいです・・・」


 少し悲しそうな真矢ちゃんの言い分に笑いそうになりました。


「真矢ちゃん、私のことが恋しくなって電話くれたの?いいよ、暇してるから、いつでも連絡してね・・・というか、まだ勤務中じゃないの?」


 笑っていると、真矢ちゃんの声の調子が変わりました。


「いえ、いくら私でも淋しいからって電話するわけじゃないですけど。ここしばらく、ユリさんのことで何度も会社に電話が来ているんです。退職した、とは伝えているのですが、今度は私が同じ部署だったならと、いろいろ聞かれるようになってしまって・・・」


 思いがけない話に、冷や水をかけられたような気持ちでした。何やら真矢ちゃんに迷惑をかけていたと知って、決まり悪い思いでした。

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