第2話 罰
須藤を失ったことを、私はまだ、受け止めきれてはいませんでした。
もうあの人には会えないことを、信じ切れてはいませんでした。
私は、まだ・・・
別れたくはないと、あの人は言ってくれたのに。
私は聞く耳も持たなかったのです。
別れを切り出した後、会社に勤めていた頃は、まだわかってはいませんでした。
多少なりとも会えていた頃は、あの人と別れることなど怖くなかったのです。
なのに、今になってから。
あの人のいないことが私を苦しめているのです。
いま、彼にいて欲しいのに。
あの頃のように、私に会いに来て欲しいのに・・・
須藤部長・・・
いまになって苦しいのです。
私はまだ、あなたと離れたくはなかったのです。
これからもあなたに会えないままいるのは、怖いのです。
いつもしてくれたように、私を抱きしめて欲しいんです。
須藤部長はもう、東京にいるのですか?
単身赴任されると言っていましたね。
須藤部長はいまも、私のことを思い出しますか?
それとも既に、奥様と・・・
あの聡明で心広く、残酷で魅惑的な奥様と、よりを戻しましたか?
いくら須藤部長を恋しく思っても・・・
私などまるで相手にならなかった、太刀打ちできなかったあの素晴らしい方を思い出すと、連絡する勇気など持てやしないのです。
ですから心の中だけで、あなたに呼びかけることにします。
私はまだ、あなたが欲しいのに。
きっとこれは罰なのでしょう。
あなたを失った悲しさも、先の見えない不安も、このやりきれなさも。
すべては私にふさわしい報いなのでしょう。
幸いなことに、いまのところは暮らしてゆけます。
金銭的なところは、おかげさまでしばらくは大丈夫そうです。
でも私は・・・
もう私は、力をなくして動けずにいます。
身体が重くて、寝てばかりに過ごしてしまいます。
このまま、動けないまま、あなたに抱かれていた夢を見ながら眠れたなら・・・
そんな夢だけを見て、もう覚めなければ良いのにと願ってしまいます。
きっと、おそらく・・・
それもまた幸せに違いないと思うのです。
須藤部長のことを想いながら眠りについて。
もう目覚めたくはないと、夜更けに願いながら。
翌朝やはり目が覚めて、現実を思い知ると絶望します。
毎日、私は絶望しているんです。
助けてください。
誰か、私を助けて下さい。
私はもう、目覚めたくなどないのです。
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