第9話■女性ヨガインストラクターとしての仕事
男尊女卑法の施行以来、私達のような女性インストラクターのヨガ教室の男性率は増加傾向にあった。
一方で女性の生徒たちは、そんな男性達からの視線に耐えれなくなり、退会してしまう方もいたが、生徒たちの要望もあり、今は時間ごとに男女別のコースを設けることも検討している。
「吸ってー、吐いてー。ゆーっくり体を戻して下さぁい。はぁい、手を胸の前で合わせてー、大きく吸ってー、ゆーっくり吐いてー」
静寂の中にかすかな吐息が聞こえる室内で、インストラクターの声が響く。
一部の厳格な正統派のヨガなどを除いて、
街中のヨガ教室の先生は女性が務めることが大半になり、
各ヨガ教室はあらゆるサービスなどで男性生徒を取り入れるか必死だった。
その為女性インストラクターの着用するものといえば体にきつく密着するスパッツが定番になっていたし。
実際に一部の先生の中には、体を見せつけるかのように手本を見せるものもいたし。
闇がかなり深い教室なんかでは、男性の生徒の大半はヨガをせず、インストラクターや他の女性生徒のポーズや動きをみるだけの教室があるなどという噂もあった。
インストラクター業と同時に配信者として活動するものも多く、卑わいなポーズの一部が切り抜き動画として動画投稿サイト等に上がっていることも依然と比べて多くなかったように思う。
むしろ講師としてよりも、そのような男性の需要にこたえるカメラワークをする動画ばかりがバズった。
名も知れてないインストラクター達は、プロ意識を持ちヨガをすることで、なるべく心を無にしながらも男性たちの需要に答えていくことがヨガインストラクターとしての生き残る道だと悟った。
最初はTシャツにスパッツ姿で教えていた服装も、徐々に露出度は増していった。
生徒からの評価は、彼女たちの持つヨガの技術や精神云々よりも、美貌や露出度が重視された。
中には、短めのスリムタンクトップにショートレギンスで、もはや水着に近いような恰好で指導を行っているインストラクターも居た。
「先生、このポーズについておさらいしたいんですが…」
1セットが終わると間髪いれずに生徒からの要望が来た。
彼女は彼らの前で堂々とあおむけになり、足の裏を天に向けるように膝を曲げ、
その足裏を手で掴み、股関節を大きく開くハッピーベイビーのポーズをとってみせた。
このポーズは、男性からよくリクエストされる定番のポーズといったところで、私もコーチに同じポーズをとるように求められたが、いつしか何のためらいもなく彼らの前で大きく股を拡げた。
これが本当の無の境地なのかも知れない。悟りにも近づいた気持ちを持つと同時に、他の生徒からの上からの視線をまじまじと感じる。
共にポーズをとっているときは横からしか見られていなかったが、リクエストの時間ではあらゆる角度から私の身体の柔らかさを確認しようとする視線がつきささる。
理由はどうあれ私は今彼らの見世物と化している。
私の身体の反応一つ一つを見逃すまいと視線を突き立てる彼らは、私が僅かな動きを見せると息や声を漏らした。
「相変わらず凄いなぁ」
「先生はさすがですね」
「これはすごいですよ!」
彼らの言葉は一見シンプルであったが、意味深なようにも聞こえた。
先生は目を静かに閉じて、無の境地に達していた。
私は彼らの熱い視線は自分が作り上げている雑念だと言い聞かし、できる限りの股関節を広げた。かすかなざわめきでさえも邪念に感じ、無我の境地へ入ることを試みるように息を整えた。
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