第9話■ヨガインストラクターを調教する日々

男尊女卑法の施行以来、20代~30代の女性インストラクターがいるヨガ教室の男性は増加傾向にあった。

これまで男女共用で行われていたヨガの会も、女性の会と男性の会に分けるところが多くなった。

理由としては女性たちが男性からの何気ない視線や何気ない言動に不満を表すものも多かったからだ。

彼女達の大半は菜食主義で、全くのビーガン(肉・魚はもちろん乳製品まで口にしないベジタリアン)とまではいかなくても、自分の身体への健康管理の意識も高く。

自らの主張ははっきりとさせるものも多かった。

一方で男性の会員の半数は、そのような女性と出会う目的だったり

中には彼女たちの身体を凝視するために来ているような方もいらっしゃった。


その為

男性のみになってしまったヨガ教室では不満の声も上がった。

退会されてしまっては困るため、インストラクターの中には自らの露出を増やすものもいて、どのように媚びれば良いのかを必死に考えてるような教室も多々あった。


ひどい教室となると、特別会員になると入れる部屋があり、そこはマジックミラー越しにヨガに打ち込む女性会員の姿を見れる場所があったりした。


ヨガに対してガチ勢な生徒もいたが、私たち女性インストラクターの提供するサービスに満足できない生徒たちは、男性インストラクターの元へと出向いた。

男性のインストラクターの中にはインドで修業をしたというものも少なくは無い。


動画投稿サイトをみても、動画投稿者の男女の違いによって、再生回数も大きく違い、需要も異なるように思えた。

男性を意識したカメラワークは、ヨガに関連する動画投稿者のみならず様々な分野で活用されていた為、恥じらいの感情は殆ど無かった。


例えば素人系の動画配信者の露出度は徐々に増していく傾向があり

最初はTシャツにジャージ姿だった服装も、スリムタンクトップやショートレギンスへと変わり

中には海辺や川辺だからという理由で、ビキニ水着などでポーズを撮ったりしていた。


私のクラスでは1セットを終えると質問の時間をとるようにしていた

質問の時間といっても大半はポーズの復習が多かった。

彼らから出されるポーズで一番多かったのは


あおむけになり、足の裏を天に向けるように膝を曲げ、

その足裏を手で掴み、股関節を大きく開くハッピーベイビーのポーズだった。


このポーズは、男性からよくリクエストされる定番のポーズといったところで、私もコーチに同じポーズをとるように求められたが、いつしか何のためらいもなくできるようになり。私は毎セット終わるたびに彼らの前でこのポーズをした。

これが本当の無の境地なのかも知れない。悟りにも近づいた気持ちを持つと同時に、他の生徒からの上からの視線をまじまじと感じる。

共にポーズをとっているときは横からしか見られていなかったが、リクエストの時間ではあらゆる角度から私の身体の柔らかさを確認しようとする視線がつきささる。

理由はどうあれ私は今彼らの見世物と化している。

私の身体の反応一つ一つを見逃すまいと視線を突き立てる彼らは、私が僅かな動きを見せると息や声を漏らす。

「相変わらず凄いなぁ」

「先生はさすがですね」

「これはすごいですよ!」

彼らの言葉は一見シンプルであったが、意味深なようにも聞こえた。

先生は目を静かに閉じて、無の境地に達していた。


私は彼らの熱い視線は自分が作り上げている雑念だと言い聞かし、できる限りの股関節を広げた。かすかなざわめきでさえも邪念に感じ、無我の境地へ入ることを試みるように息を整えた。ナマステ

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