第四話 鶴美ショック

佐賀。

祐徳稲荷神社の付近にはプリズムのような結界が張られていた。中には菊菜鶴美を含む数名の巫女や神主が幽閉されていた。

「あれは結界じゃろか?」

「そうじゃのう。長生きはするもんじゃ」

近所の人たちが見物する中、地元の佐賀県警が雑踏警備ざっとうけいびに当たった。

「はい、下がってください」


***


境内。

「な、何をするつもりなの? あなた狐?」

「ふははははは、巫女ごときが。我が千年の恨みなぞ、分かるまい。たかだか鏡一枚くらいで」

空狐は懐から古びた一枚の鏡を取り出した。

「あ、あなたのそれ、御神体の八咫鏡やたのかがみじゃない。どうして持っているの?」

鶴美が生徒を叱るような目で空狐に詰め寄った。

「たしか後一条天皇の時代だったかな。ほんの遊び心だったのだがな。まさか千年もこんな社に閉じ込められるとは思わなんだ」

「せ、千年!?」

「そうだ。人間ならば十代か十五代ほど遡れば、いいのだろうか。実に長かった」

「目的は何なの?」

「そうだな。神主でも痛い目に合わせようか」

すると遠くからミサイルの音が聞こえた。耳をつんざくような鋭い音だった。

神主は、まさか日本三大稲荷に向かって自衛隊が攻撃を仕掛けてくるとは想像だにしなかった。

しかし、それは飛んできた。

そして、本殿の屋根に立つ空狐目掛けて向かってきた。

空狐はさっと鏡を取り出すと不可思議な邪術を使い、いとも簡単にミサイルの方向を変えた。

そして、方角を変えた小型ミサイルは、そのまま菊菜あさひの乗る戦闘ヘリコプターに直進してきた。


絶体絶命である。


「もしかして、あのヘリコプターは姉の?」

妹で巫女となった鶴美の脳裏に”絶望”の二文字が走った。


刹那、鋭い閃光が遠くで弾け、コブラは塵のように消えると鶴美は口を両手で覆って、目からぼろぼろと涙をこぼした。

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