第76話 夜明け

 二体のスケルトンと僕達は戦った。戦い続けた。


 一体何度スケルトンを破壊しただろう。


 それぞれの戦闘力は高くなかったと思う。


 大柄な方は力が強く、小柄な方は俊敏だった。大柄な方はアレク、小柄な方は僕が、そしてクラリスはそれぞれのサポートをして戦った。



 はじめは僕達が優勢だった。これは間違いない。


 スケルトンは骨の強度が高い訳ではない様で、まともに一撃が入ればその部位は折れるか砕けるかをしていた。


 だが、それもあっという間に再生する。下手をすると砕いた直後に再生され、その腕で攻撃を受けるなんて事もあった。


 それと、スケルトン自体の対応力がどんどんと上がっていった。始めは受けられなかった僕の攻撃が、次第にいなされ、最後には正面から受け止められてしまった。


 ……次はそのまま弾き返されるだろう。






 スケルトンの再生力、そして対応力。


 その2つで僕達は遂に窮地に立たされてしまった。


 クラリス、アレクと背中合わせに立ち、肩で息をしながら話し合う。


「クラリス、どうしよう。このままじゃ僕らは……」


「それ以上は言うな、ハクト。こんな奴等、必ず俺が倒して見せる!」


「……二人とも極端だね。時間を稼いでくれればやれる方法もあるんだけど、今のままじゃ、少し厳しいかな」


 スケルトン二体とそのお供の野盗が、僕等を囲む様に立ちはだかり、その間合いをじりじりと詰めてくる。


 くそっ、こんな奴らに!


 一対一の力では決して負けてない。だけど、倒しきれない!


 非常に悔しい戦いを、もう何時間もし続けている。僕達の体力ももう限界に近い。


 空が白み始めてきた頃、ソレは突如として訪れた。


『アッ! マブシイッ!!』


 僕等を取り囲んでいたスケルトンが、日の光を浴びて、喋ったのだった!!


 日の光を受けたスケルトンは、あるかないか分からない両目を手で覆い、小さく蹲ってしまった!


「ボン様! バーンブ様!?」


 野盗の女が慌ててスケルトンに駆け寄り、自分のマントで覆う。男も同様にマントを脱いで被せる所だった。


 なんだ、一体何が起きた!? 喋る魔物も不思議だったが、その行動も不可思議だ!


 だが、このチャンスを逃す訳にはいかない。クラリス、アレクと目で合図をし、一斉に飛び掛かる!


 ──こうして、僕達は一晩中続いた長き戦いに終止符を打ったのだった。










 ◆◆◆◆◆◆










「さて、あなたたちの事を教えて貰おうかな」


 口調は柔らかいが全く笑っていない目でクラリスが問いかける。野盗も魔物も合わせて縄でぐるぐる巻きにし、地面に座らせている。


 もっとも、魔物なんかは日が当たってからは萎びてしまい、立ち上がる気力もないみたいだ。


「くっ……! 誰がお前らなんぞに屈するものか! 煮るなり焼くなり好きにするがよい!」


 なんだかこれではどちらが悪者かわからない。間違いなく悪いのはこいつらで、僕等は被害者のはずなんだけど……。


「クラリス。こんな奴らに情けなんてかけるだけ無駄だ。いっそひと思いに殺してやるのがお互いの為だ」



 アレクも過激な発言をしている……。


 確かに後腐れないようにするのもいいんだけど、こいつらの人間の方には二度も襲撃をかけられた。出来れば多少なりとも事情を聞いてみたい。



「どうして僕達を狙ったの?」


「それはそこにお前達がいたからだ!」


「どうして魔物と一緒に行動しているの?」


「それはボン様とバーンブ様が偉大だからだ!」


「どうして盗賊をしているの?」


「それはお前達なんかでは分からない崇高な目的があるからだ!」


 女の方は終始こんな調子であまり話にならない。途中、諦めて男に話を聞いてみたが、だんまりするだけで何も情報は得られなかった。



「さあ困ったね。こいつらと話しをしていても先に進まないよ。アレクの言う通り、ここでひと思いにやっちゃおうか?」


 右手の杖に炎を灯しながらクラリスが言う。


「ひぃぃっ! や、やめて! なんでもしますから!」


 意外な事に、悲鳴を上げたのは大きな方のスケルトンだった。縄に縛られたまま後ずさりをするような動きをし、瞳はないが涙を流しそうな雰囲気だ。


「なんでもするので、私だけは助けてください!」


 ここまでくるといっそ清々しい程の懇願だった。隣で小さい方のスケルトンも頭をぺこぺこ下げている。



「ほう。なんでもすると言ったか。そもそも喋る魔物が珍しいのだ。そこらへんも含めて色々教えて貰おうか」


 クラリスの笑顔に相手4人が一斉に引きつった顔をする。(スケルトンの表情は不明だったが)


 こうして少しずつ彼等の謎が解けてきたのである。




 魔物の彼らは、珍しい喋る魔物だった。


 アンデットとなって久しい為、その昔の記憶は摩滅してしまっているが、言葉や日常生活の習慣などは忘れなかった。


 二人(二体?)は最初はあまり仲良くなかったらしい。


 たまたま同じタイミングに墓場で目覚め、仕方なく行動を共にするうちに少しずつ息が合ってきたそうだ。


 そのうちにアンデッドの特性を活かした戦い方や、お互いを補完しながら戦う方法を身に着け、今ではお互いなくてはならない存在となっている。らしい。



 人間の彼等は女がミレ、男がトニーというらしい。冒険者を目指して田舎から上京し、ボンとバーンブと出会ってしまい瀕死の重傷を負ったそうだ。



 だが、殺されなかった。ボンとバーンブの二人は好んで人を殺す事はなかった。


 動けないまま二体のスケルトンを見続け、その二人に確固たる信頼関係があると分かったミレとトニーは感激した。


 魔物同士でもこれだけ心を通わす事が出来るんだ。私とトニーだって、しっかりと心を通わせて戦っていれば負ける事はなかったかも知れない。


 そんな考えに至った彼女は、ボンとバーンブの配下につかせてくれと依頼をする。


 二人の絆に感動した。二人の魔物らしからぬ配慮に感激した。ぜひ二人のそばで見習わせて欲しい。二人の事をもっと教えて欲しい、と。



 今まで人間との関わりが少なかったボンとバーンブは困惑した。この人間は何を言っているんだと。


 だが、熱心に頼み込んでくるその姿勢に次第にほだされて、遂には配下として受け入れる事にした。


 配下とは言え、ボンとバーンブが二人に何かを命じる事はない。ミレとトニーが勝手に二人の為に何かをしているだけだ。


 特にアンデットの二人は、昼間の活動の幅が極端に狭まるので、そこをサポートするという形が自然と出来上がった。


 こうして二人(二体?)と二人の奇妙な共同生活は始まり、今に至る。



「な、なんという事だ……。素晴らしい! 感動した!」



 ……えっ?


 アレクが驚きの発言をする。恐る恐るアレクの方を見れば、目を潤ませ拳を握りしめて聞き入っているではないか。


 今の話は美談なのだろうか……。確かに魔物と心を通わす事は素晴らしいが、そこまでだろうか。


 良く見ればクラリスもうんうんと力強く頷いている。


 うーん……。とりあえずここは僕も頷いておくことにしよう。



 いまいち納得は出来ないが、とりあえずこの4人の事は分かった。

 さて、これからどうしようか。

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