第16話 厭らしい目
なし崩し的に騎士見習いの話が決まったが、詳細を聞かない訳にはいかない。
俺は父とバリス公爵に騎士見習いの詳細を確認した。
だが、現状ではあくまでも仮で実施する事しか決まっておらず、正式にいつからいつまでという物はなかった。
「だが、アレクの言う通りある程度の概要は決めておかねばなるまい。そうだな、見習い騎士団への入団は1か月後、そこから2か月の体験入団という事でどうだろう」
2か月間の騎士見習い。この期間で本当に騎士の事が分かるのか。騎士たる者としての実力が身に付くのか。色々不安はあるが、騎士団の運営側も色々考えての策なのだろう。
せめて俺が努力して、この制度が無駄ではないという事を証明しなければならない。
「承知しました。それまでに少しでも正騎士へ近づける様精進致します」
「私も頑張りますね、お父様、おじ様」
こうして昼食会はお開きになり、バリス公爵は業務の為王宮へと向かった。
父と母、そしてメルト夫人は庭内の散歩をしながら積もり積もった話をするというので、引き続き俺はエリスと稽古をする事にした。
エリスと伴って先程稽古をした中庭に出る。二人とも既に着替え終わっており、手には模擬剣を握っている。
だが、その前に確認しなければならない事があった。
「エリス。お前は知っていたのか。騎士見習いの制度の事を」
「いーや、全然知らなかったよ。なんで?」
「知らなかっただと……。ならば何故、父上達から話を聞いた時、即決で引き受けたのだ!」
俺はエリスの態度に少しだけ語気が荒くなってしまう。しかし、続くエリスの言葉は俺の気持ちを一瞬で鎮静化させた。
「アレクとボクの為だよ」
「……えっ?」
「だって、アレクは悩んでたでしょ? あれでボクが受けないって言えばきっとアレクも受けなかった。自分自身の力でいつか正騎士の座を掴んで見せますとかなんとか言って、断ってたんじゃない?」
図星を突かれた。
確かに俺は騎士団に入るのであれば自身の力でとも思っていた。だが、だからと言ってエリスまで騎士団に入る必要はないではないか。
「お前はそれでいいのか? さっき冒険者になりたいって言っていたばかりじゃないか」
「ボクはいいんだよ。冒険者はいつだってなれる。でも騎士団に入るなんてボクは考えた事もなかったし、実力を付けられるのであれば騎士団に入る事は悪い事じゃない。万が一、正騎士への登用も有り得るのであれば、それはもしかしたら冒険者よりも魅力的かも知れないしね」
エリスは舌を出してウインクする。これだからエリスの本心は分からない。
本当に冒険者になりたいのか、それとも本当は騎士になりたいのか。……俺を気遣っているだけなのか。
その後、日が暮れる迄エリスと剣の稽古を行い、剣技についての談義をする事になった。
◆◆◆◆◆
そして、遂に見習い騎士団へ入団する日が来た。
俺は今までも剣の稽古を積んでいたが、この話が決まってからは剣術指南役のベルフと、いつにも増して熱の入った訓練を行っていた。
エリスはあの後、両親と共に自身の拠点である南の街、ブラーゼに帰りそこで訓練を積んでいた様だ。
今日、見習い騎士団入団予定者は王宮に集合する事になっている。
本来、騎士になるには王より叙勲を受けて騎士として認められなければならない。だが俺達は叙勲を受けるべき功績等何もない。あくまでも見習い騎士団に入団するという事で叙勲を受け、正式に騎士見習いと認められる。
そろそろ出立の時間かという時、一台の馬車が屋敷の門を潜ってきた。
玄関の前で止まった馬車からは、バリス公爵とメルト夫人、そして騎士らしい装いをしたエリスが降りてくる。
「やあ、久しぶりアレク。あの後、剣の腕前は上がったのかな?」
一月前に会った時よりも、エリスは精悍な顔立ちをしている様に感じる。
俺の気後れか、それともエリスが努力をしてきた証か。
王宮まで一台の馬車で向かう手筈になっており、父も同乗する。代わりにメルト夫人はうちの屋敷で降りて、母とお茶を楽しむそうだ。
俺も父に続いて乗車し、バリス公爵と挨拶を交わす。その後、見習い騎士制度についての話を聞いた。
「最終的に、今回の見習い騎士団へ入団する者はアレク君とエリスを入れて10名。基本的には皆貴族の子弟が集まった。当初の予定通り、まずは2か月仮入団して貰う。但し、任務の内容次第では延長される場合もある」
「その、延長される場合とは?」
「例えば外地に遠征してトラブル等に巻き込まれる場合だ。今回君達には決まった任務や任地はない。全ての部署や仕事を見てもらう事になる。その中には遠征業務もある。遠征先でのトラブルや、街道の断絶等ないとも限らないからな。その時は、その瞬間に所属している団と行動を共にしてもらう事になるだろう」
なるほど、あくまでも正騎士団員と同一条件という事だ。これは当たり前の話だろう。
その後も細かい話を聞かせて貰う。本来であれば仮入団する皆と聞くべき話なのだろうが、一緒に馬車に乗っている人間がこの制度の発案者だ。これくらいの役得は許されるだろう。
一通り話を聞いた頃、馬車は王宮に到着する。
これから仮入団の人間との顔合わせ、そして王への謁見だ。少しずつ緊張感が高まって行く。
王宮への門を潜った所で俺とエリスは降車する。父とバリス公爵はそのまま馬車に乗り、王宮奥へと進んで行った。
俺とエリスは門近くの集合場所へと歩いていく。そこには既に集まっていた見習い騎士団入団予定者の姿が見える。
今回の入団予定者は、ほとんどが貴族の子弟だと聞いた。確かに集まっている人間達の身なりは良く、その姿もどことなく品のある様に感じた。
ただ、その目にはあまり良い印象を感じなかった。俺とエリスを見る目は、間違いなく値踏みをしているし、ことエリスに対してはそれ以外の厭らしい物も含まれている様に感じる。
俺達は無言で集合場所へ立ち、案内の者が来るまで集まっている者の観察をしていた。
皆それなりにお互いの事を気にしている様だが、その中で3人程一塊になって、こちらをジロジロ見ている者達がいた。
一人は、ウェーブのかかった金髪を肩より下まで伸ばしたタレ目の男。その隣に茶髪を短く丸く切りそろえた卑屈そうな男。さらにその隣に身長が2m近くありそうな、ぼーっとしている黒髪の男。
その三人が特にこちらを気にしている様に感じるし、金髪の男はわかり易くエリスを上から下まで舐める様に見ていた。
「アレク、なんか凄く不快な視線を感じるんだけど……」
「多分、気のせいではない。俺も同意見だ」
こそこそ話をしていると、迎えの者が来た。
「えー、みなさん、でいいよね……。えーっと、今から謁見の間へ案内します。私は第一騎士団所属のデニスです。これから皆さんとご一緒する事もあるかと思いますので、どうぞ宜しく」
デニスと名乗った男は、銀髪を短く刈り込んだ爽やかな男だった。今日俺達を案内する様に命じられたのだろう。まだ若く見える男は行動に隙が無く、きびきびした動きで俺達を謁見の間に連れて行く。
俺達は一先ず不快な視線の事は忘れて、王との謁見に臨む事にした。
デニスは案内がてらに今日の謁見の趣旨と作法を伝えてくる。そんなに難しい事ではないはずだが、相対する人間がこの国の統治者だ。自ずと緊張は高まる。そして、遂に謁見の間の入り口に立つ。
重厚な扉は吹き抜けの天井まで続いており、言葉に表せない圧迫感を与えてくる。
扉の前でデニスが合図をすると、扉の向こう側にいる人間が声高らかに告げる。
「騎士見習いの一同が只今到着致しました」
────ギギギッ
重く、大きく扉が開く音がする。
その音までも重苦しい空気を醸し出す演出の一つではないかと錯覚する。
そうして入った謁見の間は、自分の思っていたよりも大きく、高かった。
赤を基調とした広間は荘厳な装飾が施され、ここがこの国を統べる者の居る場所だと無言で訴えてくる。
その圧力に負けた訳ではない。が、扉から真っ直ぐ奥へ伸びた道。その道を全員で真っ直ぐに進む。
その先の玉座に居る王に対して、全員何も言わずとも膝を折り、その忠誠を表明した。
立膝の状態で王からの言葉を待つ。それは永遠に続くかと思われた一瞬の後に発せられた。
「勇気ある者達よ、よくぞ集まった。余はシャルマン王国国王、リヒト=フォン=シュタインベルクである。ここに居る貴殿等は、正騎士ではないが正騎士にも勝るとも劣らない勇気と忠誠心を持ってここに居る。これからの貴殿等の活躍を期待して、ここに騎士見習いとしての栄誉を授ける」
そういって、王の側付きの人間が俺達に勲章を渡して行く。
……これが騎士の栄誉か。
まだ、まだ出発地点が見える場所に立っただけだ。それなのに体が震える。
俺はまだ騎士ではない、見習い騎士だ。それなのにこの昂揚感。
この為なら何でもする、何でも出来る。
俺の体は静かに震え、得も言われぬ万能感に酔いしれる。
今ここで、俺の心は間違いなく騎士になったのだった。
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