第8話 二人の新しい生活

 クラリスについてそのまま王都の商人街に来る。どうやらここにその、王都で一番の武具店があるらしい。


「何故王都で一番と分かるんですか?」


「そんなの簡単さ。その店はガルフの武器屋を名乗っているからね」


 僕には意味が分からず首を傾げる。


「ハクトは英雄ガルフを知らない? あの聖剣伝説の」


「え、いや、それは知ってますけど。何故そのガルフの武器屋を名乗ると一番なんですか?」


「ああ、そうか。それを知らなければ無理ないね。それはね」


 クラリスはまた色々と教えてくれた。

 聖剣伝説で語られる伝説の錬金術師ガルフ。彼の作る武器は英雄ギルベルトも愛用していたそうだ。

 そのガルフの名を冠する店。これは、5年に一度王の御前へ献上された武器の質でその名を下賜されるらしい。



 このガルフの武器屋は、ここ最近はずっとその名を賜り続け、名実共に王都で一番の武器屋であり続けているそうだ。


「だから、武具を買うならここの店が良いはずだよ」


 そう言って案内してくれた店は、先程の店よりも大きく、客も店の外に溢れ返りそうだった。


「すごく繁盛してるみたいですね。僕が買えるくらいの剣があればいいんですけど……」


「大丈夫、価格はピンキリさ。もしお金が足りなければ私が貸してあげるから心配ないよ。もちろん、利子は取るけどね」


 またしてもクラリスはイタズラな笑顔を向けてくる。正直、美人の笑顔は見慣れていないから僕には刺激が強い。




 大勢の客を掻き分け店内に入る。

 意外な事に、店内に展示されている武具は数が少なかった。


「思ったより数が少ないですね…」


「ここはね、店主が納得した質の武器しか店頭に並ばないんだ。基本的にグレート以上だと思うよ。逆に言えば弟子達が作った武器であっても質が良ければ並ぶから、もしそれが見つけられればお買い得だよ」


 二人で人の隙間を探しながら売り場の前に行く。目指すは勿論刀の売り場だ。

 刀の売り場は人は少なかった。物珍しさで立ち止まる人はいるものの、手に取ったりじっくりと見る人は居なかった。


「やはり、刀は人気ないんですね…」


 これから刀を買おうと思っている僕は、有難くも残念という不思議な気持ちになった。


 並んでいる刀は三振。

 その内の1つはミスリル製の為、なんと価格が300万ギルもした。絶対買えない。

 残るは二振。1つは装飾がしっかりとされ、優美な見た目だ。金の鍔や朱に塗られた鞘がとても目を引く。これで80万ギル。


 もう1つは全体的に地味な刀だった。基本的に黒一色。店頭に並んでる以上、グレート以上の品質なのだろうがやはり隣の優美な刀と比べると見劣りしてしまう。

 だが、この刀は10万ギルと値段も手が届く。これはこの店の弟子が作った物なのだろうか。


 そんな刀が気になりそっと手に取る。不思議と手に馴染む感触があった。


「クラリスさん、これを試し斬りは出来るんでしょうか」


「当然出来るんだけど、この店は客が多いからね。順番を結構待つかも知れないけどいいかな?」


 僕から言い出した事なので、当然待つ覚悟は出来ている。

 試し斬りの受付をして、待ち時間に防具を見てみる事にした。



「ハクトは相手の攻撃を受ける?避ける?」


「実戦の経験がほとんどないので何とも言えませんが、多分避けると思います」


「じゃあ避けきれなかった時に致命傷を避ける為の防具を選ぼうか。あそこにあるかな……」



 基本的に守るべき場所は、どんな戦い方であっても同じだ。


 頭・首・胸。ここが致命傷となり得る所。

 優先順位は人それぞれだが、それに価格の兼ね合いもあるので今回は最低限の装備とする。

 胸当て、腕甲、脛当ての3つを選び購入する。

 胸当ては鉄製、腕甲と脛当ては革を二重にあてて、しっかりと表面が加工されている丈夫な物を選んだ。

 今後の依頼に活躍する機会があるといいな。


 そうこうしている間に試し斬りの順番で呼ばれる。やはり店の奥の庭で試し斬りが出来るみたいだ。


 中庭には色々な種類の標的があった。その中で藁を纏めて縦にした物を切る様に指示された。


 改めてこの店の刀を握る。重さは先程の店と同じくらいだと思うが、軽く素振りをするとこの刀の方が軽く感じた。恐らくバランスなどの問題なのだろう。


 ヒュンッヒュンッと小気味良い音がする。その刀を上段に構えて、そのまま振り抜く。



 ────スッ


 今回は何の音もしなかった。刀身が藁に触れる音もしない。藁の中にあった支えの丸太ごと切り落としたが、その丸太に触れた感触もしなかった。

 刀が触れたその標的は、音もなくずり落ち地面に転がった。


 クラリスが無言でトマティアを渡してくる。それを台の上に乗せ、先程と同じ様に横薙ぎに払う。


 トマティアはその身を崩さず、切られた上の部分だけが横にずれ落ちていった。


「……すごい」


「ん、そうだね。良い刀だ」


 二人とも感想は短め、行動は迅速だった。


 購入を決めて早速手続きをする。

 その際には刀の手入れ方法などが記された注意書きも丁寧に添えてくれた。

 最終的に掛かった費用は20万ギル程で、初依頼で手に入れた金額に自分の所持金を合わせてなんとか購入が出来た。


 僕もクラリスも満足して店を出る。


「クラリスさん、買い物に付き合ってくれてありがとうございました。おかけでとても良いものが買えました!」


「君が満足出来る物が買えて良かったね。私も武具店なんて来たのはすごく久しぶりだったから楽しかったよ。それと君の剣も少しだけ見れたしね。荒削りだけど、良い腕前だったよ」


 まさか剣の腕をクラリスに褒められるとは思っていなかった。

 剣は苦手だと言っていたけど、使えない訳ではないのかな。クラリス程の人間であれば、一通り何でも出来ても不思議ではない。


 どちらにしても、暫くは地道な依頼が続いて行くはずだ。

 その合間合間にクラリスに稽古して貰い、出来れば実入りの良い討伐や警護等の依頼がこなせる様になればいいな。



 こうして、僕とクラリスのちょっと変わった王都の日々は幕を開けた。

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