第34話 漆胎のマリステラ
「全身を包む膜。全てを一撃で消滅させることができて、初めて無力化できる律業術でしたカ」
「いま、亡骸はどうなってる……」
死体からは業光が見えない。レムの力で疑似的な視力を得ている今の状態では、漆黒の律業術に利用された者の姿は認識できなかった。
「遺体自体も損壊が激しいですね。命尽きている者であれば、どんな状態であっても十分な性能を発揮できるようでス」
「――っ」
「フフフ……ヨスガ、貴方が憤りを覚えるのも理解できます。死者を愚弄するかの如く使役する業。嫌悪し、私と同じく敵対する相手として相応しい罪徒ではありませんカ?」
アヴィクトールは穏やかな声色でヨスガに近づいてくる。
肩に手を置き、耳元で諭すように囁いた。
「第3罪徒は私達、共通の敵です。こんな人道に背く律業の系譜を、野放しには出来ないでしょウ?」
「共通の、敵……」
共感などしたくないが、アヴィクトールの言葉は間違っていない。
「私が……いえ、我が社の技術で全面的に支援いたします。ですからどうか、今後の犠牲者が増える前に……共に第3罪徒を――」
『とっても悪い大人……ぜんぶ、マリステラのせいにしようとしてる』
感情のない声が響く。
その声で、ヨスガは我に返った。
アヴィクトールを突き飛ばし、襲い来る新たな律業術、漆黒の膜に覆われたアマナの刀を片腕で受け止めた。
「アマナを戻せっ!」
『まずは、マリステラのお話を聞くの』
片腕で刀を弾き、漆黒に囚われたアマナと向かい合う。
『その男……アヴィクトールは危険。言葉に気を付けなきゃダメ。おにーさんも、惑わされる』
「危険なのは分かってる! だけど、どうしても……この男を助けないといけないんだ」
『……頑固者。だったら、マリステラが教えてあげる』
子供の人形が設置されたステージ。そこからヒョイっと、何者かが降り立った。
「アヴィクトール・カロス。そこにいる悪い大人が、ここで何をして、どうして一人だけでも無事でいられたのか……」
精気を感じられないほど白い肌をした、人形のような少女。
律業の系譜、第3罪徒――漆胎のマリステラが襲撃時の真相を語り出す。
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