ゼンカの業

第28話 九死一生

「……運、なかったっぽい？」

　素早く刀を鞘に納め、アマナはリーゼに視線を向ける。

「お嬢、ごめん！　死なせちゃった～♪」

「ぐっ……ガチだ。ガチで本当に、死ぬかと思った……っ」

　緊張の糸が切れ、ヨスガは安心感から屋敷の庭に倒れ込んでいた。

　あまりに唐突に死の危険に晒され、思わずイェフナの口癖がうつってしまう。

「おおっ♪」

「――……運がいいのです」

「そだ――……ん？」

　盛り上がった庭の地面、造り出された片腕の石像が、背後からアマナを叩き潰す寸前で止められていた。

「あっしのことか……ぐわっ！」

　すぐさま駆け寄ってきたリーゼによって、アマナの額が地面につく寸前まで下げられた。

「この件はシュトライゼ家の名誉にかけて、必ず償います！　なのでどうか、この子を許してあげてくださいませ！」

　ヨスガは地面に座ったまま、躰を起こす。

「ハハハハ……。十分助けてもらったから、これでお相子ってことで……」

「だって。だから気にしないでよ、お嬢！」

「……何なのですか、コイツ」

　レムがアマナに対する率直な感想を口にした。

「あのっ……あのさ、お嬢。そろそろ頭を離して……――？」

　リーゼに頭を抑えられ、下を向いたままだったアマナ。そこで柄の先端がひび割れていることに気がついた。

「絶対死んだって思ったけど……そういうことか。ま、合格っしょ」

　最初の一撃で、運試しは済んでいた。

　ほんの僅かな重心のズレにより、普段通りの感覚で振るえなかった剣技。

　ヨスガが一生を得たのは、運が良かったということだ。

「アメツチ、気は済みましたわね？」

「うん。運がいい人は好きだしね♪　気合い入れて守っちゃうよー！」

　ヨスガの首に手を回し、アマナは行進するように歩き出す。

「あのっ、力が強……」

「アヴィス・メイカーのとこに行くンだっけ？　そンじゃ、しゅっぱ～つ！」