第25話 覚醒
リーゼが呼んだ医者による診察が始まった。どうやら二日間、ヨスガは意識を失ったまま横になっていたようだ。
続けてヨスガの怪我の具合を医者が語る。
視力は完全に失われていないようだが、日常生活を送るのは難しいらしい。多少は快復する可能性もあるが、時間が必要だと言われる。
診察が終わると医者は席を外した。ヨスガはより詳しい状況を知るため、リーゼに質問を投げかける。
「ここって、リーゼの家?」
「えぇ。お屋敷の前で倒れていたヨスガ様を見て、とても驚きましたわ」
屋敷の前で倒れていた。目の見えない状態で歩いて、偶然ここに辿り着けたとは思えない。きっと、誰かに運びこまれたのだ。
「レムは……一緒にいましたよね」
ベッドで横になっていた身体を前に倒すと、ふらついてしまう。そんなヨスガをリーゼが支えた。
「えぇ、このお屋敷にいらっしゃいます。ですが、ずっと意識がありませんの……。お屋敷の前で見つけた時と同じ体勢で……膝をついて蹲ったまま硬直していますわ」
レムの現状を聞き、ヨスガは原因に思い当たる。
「案内、してください」
「今はお休みなさった方が……」
「お願いします」
若干の間が空いた後、リーゼは「分かりましたわ」と短く告げた。
「掴まっていてください。肩をお貸しいたしますわ」
優しく躰を起こされ、立ち上がる。リーゼに支えられながら、ヨスガはレムの元へ案内されていく。
「レム様は、お部屋の一室に運ばれています。普段、お客様専用の寝室として使われている場所です」
「こんな迷惑かけてるのに、本当にありがとう。親切にしてくれて……」
「迷惑だなんて、思っておりませんわ。お二人は、わたくしやマルクティアの民を助けてくださいました。その御恩に報いるのは当然です」
しっかり全身を支えられるよう密着感を強めつつ、リーゼはヨスガに語りかける。
「お二人の傷が十分に癒えるよう、お尽くしいたします。それが、わたくしの務めですわ」
ヨスガは申し訳なく感じながらも、一つ頼みごとをする。
「……部屋に着いたら少しの間、レムと二人にしてもらえますか?」
「分かりましたわ。そのようにいたします」
ゆっくりと屋敷の中を歩いて行く。霞む視界でもリーゼの家が広いことが分かった。
「こちらに、レム様がいらっしゃいます」
リーゼが立ち止まり、ヨスガの代わりに部屋を開ける。そのままレムの前まで導いてくれた。
「それでは、お部屋の前でお待ちしていますわ」
レムが今どんな姿でいるのか、はっきりとは分からない。だがきっと、メアトや律業の巫女……いや、ミトロスニアとの戦いでボロボロに傷ついたままだろう。
レムと二人になったヨスガは座り込み、ゆっくりと片手を伸ばす。そのまま手探りでレムの頬に触れた。
ぼやけた視界で慎重に顔を近づけていき、業光を提供するため自ら唇を重ねる。
躰から力が抜けていく感覚が広がっていく。しっかり業光が流れ込んでいるようで安心しつつ、レムの意識が戻るまで待ち続けた。
「――ん……」
レムの全身が、ピクンと僅かに震えた。ヨスガは唇を離して、さらなる反応を待つ。
「……ワタ、シは……」
「おはよう、レム」
「はい……目覚め、ました」
ぎこちない様子で返答し、レムは二日ぶりに活動を再開する。
「……イェフナ・レーヴンとは、会うことができましたか?」
「うん、少しだけ。……けど誰かに、連れていかれた。助けてあげられなかった」
「ならば、取り戻すしかないのです」
「……そのつもりだ」
レムは膝をついた体勢から立ち上がると、ヨスガの手を掴む。一呼吸おいて、引っ張られる躰。
レムと同じく立ち上がり、ヨスガは今しがた案内された部屋の入口へ戻るように、たどたどしく進む。
「ここはリーゼの屋敷で、ボク達は意識を失ったまま、屋敷の前にいたらしい」
「……話は後なのです」
ガチャリ、と鍵が閉められた音と共に、隣に寄り添っていたレムの気配が消えた。
「まずは対価をいただきます」
「それはさっき――」
優しく唇を押し付けられたかと思うと、腰が抜けるほどの吸引によってヨスガの業光が搾り取られていく。
背中に回されたレムの手に躰を抱えられながら、為す術なく契約の対価を支払い続けた。
夢中になりすぎているのか、ヨスガを引き寄せた勢いで部屋の入口に音を立てて寄りかかったことに気づかない。
「ヨスガ様っ? 大丈夫ですか!? あれ、鍵が閉まって……」
リーゼに声をかけられて我に返ったのか、ようやく業光の供給が終わった。
部屋から出てきた疲労困憊なヨスガと、これまでの状態が嘘みたいに活き活きとしたレムの様子に、リーゼは驚愕したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます