22:決断

 駆け込むように家に入り、自分の部屋に飛び込んだ。


 乃愛の想い。

 静香の人柄。

 悠の優しさ。


 全てが今の深雪の身勝手さを責め立てるように思えてならない。

 乃愛は、例え悠が好きだからという理由があるとしても、今まで深雪と友達として付き合ってくれていた。

 静香は、悠だけじゃなく初対面の自分にまで親切にし、何かあったのではと労わってくれた。

 悠は、悠は…。

 本当に好きな人の前で、私を“彼女”として紹介してくれた。


 皆、自分の気持ちより、周囲を気遣っている。自分の気持ちを二の次にして。

 それに引き換え、自分は―?

 月兎に頼んで時間を遡り、他人の記憶と人生と心を捻じ曲げて、自分の安心を優先させた。

 自分は、果たして本当に悠のことが好きなのだろうか。ただ一緒に居ると安心するから、それが当たり前だから、という理由だけで、悠を不当に縛り付けているのではないだろうか。


 自分の幼さ、至らなさに愕然とし、それに引き換え仕出かした事の大きさに恐怖と後悔が沸き上がってきた。

 悠から気遣うメッセージが送られてきていたが、気づく余裕は深雪にはなかった。


◇◆◇


 夜になり、月が中天近くまで上った頃。

 月兎が現れた。

 普段なら突然の登場に驚く深雪だが、今日は待ち構えていた。そして月兎もそれに気づいていたかのように、黙って深雪の隣に座った。


「何か、あったんだな」

 こっくり頷いて、深雪は今日あった一部始終を話した。事実だけでなく、自分が何を感じ、考えたのかも…。


 話し終えてからしばらく、月兎は何も言わなかった。

(さすがに月兎も呆れたかな…。そうだよね、私のお願いを叶えてくれただけなのに、こんな泣き言聞かされたら…)


 月兎に対しても申し訳なさを感じ、様子を伺っていた時、月兎が口を開いた。

「本当のことを、話すか?」

「本当の、こと」

「ああ…。僕のことも含めて、全部、悠に」

 想定外の提案に、流石に深雪は身を引いた。

「で、でも…そうしたら、元に戻っちゃう?」

「まあな。今が本来たどるべき現実とは別物だと、悠が知ることになるからな」


 元に戻る。

 悠に絶交された時の恐怖が、たった今起こったことのように深雪の全身を襲う。

 しかし同時に、さっきまでの申し訳なさと恥ずかしさが、同じ強さで深雪の心を握りつぶす。


 どっちを取っても、辛いのは同じかもしれない。

 だとしたら…。

 決めかねている様子の深雪に、月兎が助け舟を出した。

「深雪から話しても、きっと悠は信じないだろう。それじゃ意味がない。僕から話すよ」

「え、ええ?!ムーちゃんが?」

「だから!ムーちゃんじゃなくて、月兎としての僕、が!」

「あ、ああ、そうか…。でも、あれ?月兎の声は私にしか聞こえないんじゃなかったの?」

「僕がそう制御してるだけ。悠に聞こえるようにする事も出来るよ。ていうか、今気にするのはそこじゃないよ。どうする?事実を言う?」


 改めて、その問題について考えてみる。

 話すか。

 黙ってこの現実を生きていくか。


 月兎が心配するほど長く、深雪は熟考し、そして目を開けて決断した。

 

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