18:乃愛
放課後。
下校準備をしていた悠に、
「朝、深雪と自習してたんだってね」
ああ、噂になってるのかと分かり、悠は苦笑しつつ頷く。
「うん。珍しく自分で宿題やってるよ。分からないところがあれば聞けって言ったらさっそく朝持ってきた」
乃愛も苦笑を返しつつ、表情に深刻さを追加した。
「どうしたんだろうね、深雪」
「…え?」
「昼休みもお弁当食べ終わったら一人で本読んでるし。深雪が読書なんて初めて見た」
ああ、それは…、と朝の経緯を説明しようとした悠を遮って、乃愛が続けた。
「誰かに、何か言われたのかな」
「何か、って?」
乃愛は悠の問い返しにハッとしたように一瞬口を噤んだが、先を促されている気がして続けた。
「うん…。神崎くんと付き合い始めたじゃない?だから『少しは釣り合うようになれば?』とか…」
「は?」
「だって、結構女子の間では騒ぎになってたし」
「だから、何が?」
「神崎くんと深雪が付き合うことになった話。深雪が即私たちに知らせてくれたから、あっという間に女子には広まったんだよね」
「それは深雪の性格からして予想つくけど…。それと今の話がどう繋がるんだよ」
「知らなかったの?神崎くん、女子に結構人気あるんだよ」
「はあ?」
「その神崎くんと、その…女子からはあまり評判がよくない深雪が、っていうことで…」
深雪が女子に評判が悪い…。
想定していなかった乃愛の言葉に、悠は息を詰めた。
「知らなかった…。あいつ、嫌われてるの?」
「みんなからじゃないよ。ただ、あのキャラが受け付けられない子とか、神崎くんファンの子とか…」
「まさか俺と付き合ったからって虐められたりとか?」
「さすがにそこまでは…。それにもし意地悪されても、深雪なら自分で抗議するんじゃない?」
それはそうだろうが…。
自分と付き合うことで、深雪がそんな不利益を被っていたとは思わなかった。
考え込む悠の様子を見つつ、乃愛もため息を吐いた。
「深雪も頑張ってるんだろうけどね…、らしくないよね。無理してる感じ?」
乃愛の言葉に、悠は驚いて振り向いた。
「宿題を自分でやるのは、まあ当たり前だからいいけど、何も読書の趣味まで真似しなくてもね。余程神崎くんに気に入られたいのね」
深雪に無理をさせている。
俺の歓心を得るために…?
眉間にしわを寄せ始めた悠に、乃愛が提案する。
「深雪のためにも神崎くんのためにも、あまり学校では仲良くしないほうがいいんじゃない?」
悠はその言葉を聞いて、強く頷いた。
「ああ」
驚きつつ、乃愛が息を呑んだ瞬間
「俺が深雪を守る」
「…え?」
「今までだってずっと二人一緒だった。やってることは同じなのに、付き合うって決めたら深雪が攻撃されるなんておかしい」
「う、うん…」
決意を込めた瞳で、悠は乃愛を見た。
「教えてくれてありがとな。でも、深雪はそんなのに負けねーよ。俺もな。あと、今深雪が読んでる本は俺が薦めたんだよ」
じゃ、と手を上げて教室へ戻る悠を、乃愛は泣きそうな顔で見送った。
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