14:反省…?

「じゃあな。ちゃんとおばさんに手当してもらえよ」

 悠は深雪を部屋まで送り届け、深雪の母に事情を説明して帰っていった。

 一人になると、深雪ははぁ~、と深くため息をついた。

「楽しかったけど、恥ずかしかった…」

 いくら高校生とはいえ、ずっと街中をお姫様抱っこされて移動した。深雪の膝が派手に傷ついているのを見た人は納得したような顔をしていたが、それでも顔から火が出そうだった。悠は涼しい顔をしていたが、一体どんな太い神経をしているのか。

 それに…。


(ずっと、何時間も私を抱えたままなんて…。いつの間にあんなにたくましくなったんだろう)


 背が伸びたのは知っていたけれど、自分を抱き上げて平気な腕力と体力を肌で感じて、別の意味で別人を見るような思いがした。

 悠の腕の温度を思い出して、またドキドキし始める…。


(こんなに大事にされていたんだ…)

 きっと、恋人になったからしてくれたことじゃない。悠はきっと、ただの幼馴染だったとしても、深雪が怪我をしたら同じことをしてくれたと思う。そして、それは今までも。

 こんな優しさを湯水のように浴びながら過ごしてきて、それに感謝するどころか気づくことすらしてこなかったのだ。


 そこに思いが至ったら、急に自分が恥ずかしくなった。


(悠のことが好き。だけど…)

 ただずっと一緒に居たから、それが当たり前で永遠に続くべきだと無邪気に、いや無神経に思い込んでいた自分は、本当にこの先悠を大事に出来るのだろうか。

 今まで悠が自分に与えてくれた優しさと同等のものを、返せるのだろうか。


 ベッドに腰掛けたまま思考に耽っていたら、いつの間にか部屋が真っ暗になっていた。


「どうした、暗い顔して」

 モフっとした感触を膝に感じて視線を落とすと、月兎が現れた。

「さっき悠が来てたな。何かあったのか」

「ん…」

 深雪は今日一日を月兎に話した。

 聞き終わって月兎は

「やっぱりいい奴だな、悠は。良かったじゃないか、思いっきり大事にされて」

「うん…」

「おい、今度は何だ?」

「今まで、我儘すぎたな、って思って…」

 ひげを2,3度そよつかせて、月兎は笑った。

(もうそこに気づけたか。もうちょっと時間がかかると思ったけどな)

「今更だろ。そんなの、深雪より悠のほうが分かってる」

「う~~~…だよね~~~~。あー、恥ずかしいよぉーーー」

「そう思うならもうやらなきゃいいだけだろ」

「出来るかなー?」

 気弱な、というより甘えたことを口にする深雪を、フンと鼻であしらい、月兎は言った。

「出来るかな、じゃなくて、やるんだよ」

 伏せていた顔を上げて、深雪は顔のすぐそばに立っている月兎を見上げた。月兎は続ける。

「悠が好きなんだろ?ずっとそばに居たいんだろ?ほかの女に今の立場を譲りたくないんだろ?」

「それは…!絶対、うん」

「僕が力を貸したからって、今後すべてが深雪の希望通りになるわけじゃない。ここから先は深雪が努力すべきなんだ」

 

 努力。


「ピンとこないって顔してるな。まあ、よく考えなよ。深雪がどこまで悠を好きなのかを、見せてもらうよ」


 風でカーテンが靡いて、一瞬だけ月あかりが差した。三日月の小さな光だが、月兎はそちらを見上げると、ぴょん、と跳んでケージへ戻っていった。

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