10:悠
放課後も、いつも通り一緒に下校した。
歩きながら話すことも、他愛無いものばかりだ。そう、いつも通りに。
深雪は、子供の頃からいつも感じていた暖かな優しさを思い出し、自然と顔に笑みが浮かぶ。
ふんわり笑いながら自分の話を聞く深雪に、悠も今までとは違う好ましさを感じていた。
(こんな風に笑う奴だったっけ…)
悠にとって深雪は、とにかく「元気な女の子」だった。
笑う時も泣くときも、いつも全力。道路向かいの深雪の家から、母親に怒られて泣きじゃくる深雪の声が聞こえるのも珍しいことではなかったし、友達の誕生日を祝っているときも、一番大はしゃぎしているのはいつも深雪だった。
その元気よさに疲れることも無くはないが、元気づけられてきたことも事実だ。
深雪が自分のそばにいることが、当たり前に感じすぎていたことに気づき、もしかしたら失われるかもしれない、その可能性を考えて落ち着かなくなり、告白した。
深雪にとっては唐突だったかもしれない。自分を男として見ていないかもしれない。そんな相手から好きだと言われて、深雪は困らないだろうか。
自分はどうしたいのか、どうしたらいいのか…、悠は正直悩んでいた。
しかし悠にとっても不思議なことに、突然勇気が湧いた。
『自分が好きだと告白しても深雪は困らない。むしろ喜んでくれる』
と、悠に耳打ちする存在がいた。
夢だったのかもしれない。勝手な悠の思い込みかもしれない。けど、背を押されたような気がして、思い切った。
『俺と付き合ってくれないか?』
いつかどこかで誰かに言ったことがあるように、意外とすんなり自分の口から出たその言葉を聞いたときの深雪の嬉しそうな顔が、今も忘れられない。
元気溌剌ファイト一発!みたいな深雪が、突然しおらしい少女に見えた。受け入れてもらえたことが、その顔で分かった。
気が付いたらそばにいた。学校でも休日でもずっと一緒で、家族より近い存在だった。お互いに。それが今更「恋人同士」になったところで何が変わるのか。それは悠にもよく分からないが。
こうするべきだったのだ。
そんな感覚が、あの日、誰かが自分の背を押してくれた時から離れない。
今の悠の深雪への想いを言葉で一言で表すと「安堵」だ。
これでずっと今まで通りの日々が続いていく。
そのことへの安心感が、深雪の笑顔と一緒に悠の胸に染みわたる。
何かを置き去りにしているような感覚がふと過ることがあるが、悠はそれに気づかないふりをしながら。
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