04:未読無視?

 昼食後、連れ立ってトイレに行く友達を見送って、深雪はスマホを取り出した。

 LINEを起動して悠とのトーク画面を開き、いつも通りのメッセージを送る。


『こらサボり魔!どこにいる!出てこーい!』


 送信して数秒、待った。しかし「既読」表示は付かない。

 ん?普段なら即レスなのに。

 電波入らないところにいるのかな。電源落としてるのかな。充電切れたかな。スマホが見れない状態なのかな。家に帰ったんじゃないの?学校にいるなら電波は入るよね。先生に言えば充電もさせてもらえるし、学校にいるのに電源落とすわけない。


 …じゃあ、どこにいるの?


 ドクン、と、心臓が大きく鳴った。

 覚えのある胸の痛みに、昨日の公園での記憶がフラッシュバックしてきた。

『彼女が出来たんだ』

 あの言葉を聞いたときと同じ緊張感が深雪を縛る。

(まさか…その女のところにいる、の?)

 ありえない。真面目な悠が学校サボって女に会うなんて。

(やっぱりそうじゃん!私が思った通り、悠は騙されてる!)


 いてもたってもいられなくなって、再び居所を知らせるようメッセージを送り続けた。

 でも、どのメッセージもすべて既読は付かない。

(まさか届いてないのかな)

 アプリのエラーの可能性も考えて、更にメッセージを送り続けるが、そうしているうちに昼休み終了を知らせるチャイムが鳴り、諦めて教室へ戻った。


◇◆◇


 結局下校時間まで悠からの返事はなく、既読が付くこともなかった。

 イライラしすぎて心身共に疲れ切った深雪は、乃愛たちに挨拶だけすると走って家まで帰った。

 そして、自宅ではなく、悠の家のチャイムを鳴らした。

『はい』

 …悠の声?

 家にいるんじゃん。それなのに…。

 深雪は再度自分のスマホを見たが、やっぱり未読のままだ。

 悠の考えがさっぱり分からないまま佇んでいると、玄関が開いて制服のままの悠が立っていた。

「何?」

 不機嫌かつ鬱陶しそうな物言いに、深雪の不安に火が付いた。

「何、って…。あれから教室帰ってこなかったの、なんで?みんな心配してるよ?私もさっきからめっちゃいっぱいメッセージ送ってるんだけど、なんで返事ないの?ていうか見てないの?」

 もう悠は深雪を見ていない。ため息をつくと

「授業受ける気分じゃなかったし深雪の顔見たくなかったから家に帰った。心配って、どうせ先生も理由を深雪に聞いて終わりでしょ。顔も見たくない相手からのメッセージなんか読むわけないじゃん。どうせ書いてあることは予想ついてるし。これでいい?もう帰って」

 取り付く島がないってこういうことか。普段の穏やかで人当たりのいい悠はどこへ行った。

 初めて会う他人を前にするような緊張感を感じて、深雪は後じさった。

 それを帰る意思と読み取った悠は、静かに玄関を閉じようとし、深雪ははっとして叫んだ。


「やっぱり騙されてるんだよ!やめたほうがいいよ、その人!」

 悠は驚いて動きを止める。深雪は(やった!)と思い続けようとしたが、悠の視線がそれを許さなかった。


「二度と俺の前に顔見せるな」


 汚らしいものを見るような、最低の蔑みの目。

 悠がそんな表情をすることが出来ることに驚いて、言われた言葉が深雪の脳に到達するまでしばらく時間がかかった。

 


 

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