三回戦、そしてそれから
最後の対決は、寝かしつけだった。タイムを数値化したものに、ペットの幸福度を加えてスコアが出る。難しい競技だ。四六時中昼寝をしているペットも、こちらから眠らせようと思うと上手くいかない。
「あわちゃん、ねんねしよ」
「なー」
あわは、用意したふかふかのふとんには目もくれず、あたりを歩き回っている。落ち着かないようだった。
「そうだよね、あわちゃんも普段と違うところにきて、緊張してるよね」
青色の瞳がわたしを見た。グラフィックだなんて思えない、透明な目だ。
「じゃあさ、こっちおいで。お話しよう」
このゲームにはマイクで声をかける機能はついているが、言っていることが事細かに伝わるわけではない。それでもわたしは、あわに話しかけた。
「今日、緊張して何もできないかもって思ってたけど、意外と平気だったな」
ちりんちりん、としっぽの鈴。星をころがすような音だ。相づちを打っているみたいだった。
「でも、あわちゃんは疲れちゃったよね、ごはんも、いつもと違う時間だし」
ふわあ、とあくび。あわのではなく、わたしのだ。
「おうち帰ったら、のんびりしようね」
「にゃあ」
わたしは目をまるくする。はじめてにゃあと鳴いたあわに触れたくて、思わず手を伸ばした。
「次は、パズルゲームで優勝したいです」
朝のニュース番組に、ワタリが出ていた。先ほどは賞金の使い道を聞かれ、「春臣の飼育費にします」なんて言っていた。足元に座る春臣くんは大型犬よりも更にひとまわり大きく、確かにお金がかかりそうだ。だけど、時折手を伸ばし春臣くんに触れるワタリの顔は、まんざらでもなさそうた。
ワタリのインタビューのあと、最後の寝かしつけ対決の映像が流れた。ワタリは上手く春臣くんを布団に誘い、たったの三分で眠りにつかせている。敵わないと思った。
わたしは、あわを眠らせることができず、敗退した。だけど悲しみよりも、あわの幸福度が一〇〇%であったことのよろこびの方が大きかった。
「じゃ、あわちゃん、学校行ってくるね」
「なー」
VRゴーグルを外し、母に見送られて、家を出る。日差しが眩しい。あわちゃんを抱きしめられなくても、わたしは幸せなのだった。
仮想世界のきみにふれたい 七草すずめ @suzume_nanakusa
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