二回戦、それからきみのこと
わたしが初めて触れたゲームは、たまごっちだった。それからずっと、育成ゲームが好きでいる。このVR型育成ゲームも、サービス開始のときから遊んでいた。だけど、プロゲーマーのように本気で取り組んでいるわけではない、ライトユーザーだ。
全国大会に出場することを決めたのは、優勝賞品に惹かれたからだった。トロフィーと賞金、そして、自分が育成しているペット。想像していた未来像を遥かに超える賞品だった。現実の生きものとして、あわを迎えられるというのだ。
三戦のうち、既に一敗したわたしには、もう後がない。両手で頬を叩き、気合いを入れ直す。
二回戦は、身だしなみ対決だった。シャワーやクローゼット、ブラッシングなどのコマンドを選び、十分以内に美しく整えてあげるという競技だ。
シャワーは美しさの数値が上がるが、リスクがある。時間もかかるし、機嫌が悪くなりやすい。悩んだが、先ほど食べたハンバーグのソースで足がべたつくのを気にしている様子だったので、浴びさせることにした。残り少ない時間で、あわが好きなふわふわのポンチョを着せる。
VRを外し、ワタリの方のモニターを見ると、春臣くんは、ゲーム内で一番入手難度の高いブラシで毛並みを整えられ、タキシードのような服を着せられていた。確かあの服は、何万とあるアイテムの中でも抜き出て、美しさの数値があがりやすいものだったはず。勝ち誇った表情を見せたワタリから目をそらした。ワタリが勝てば、その時点で優勝が決まる。実況の声に意識を集中させる。
「それでは結果です。二回戦は……ミユメ選手の勝利! 美しさは七十一%と低めのスコアでしたが、満足度の九十四%が勝利に大きく影響しました!」
一対一という状況に、観客の盛り上がりは最高潮に達した。わたしは肩の力を抜き、細く息を吐く。ワタリの着せたタキシードは着心地が悪かったらしく、美しさの九十九%という最高の数値を、満足度の四十七%で帳消しにしてしまったようだ。
残すは三回戦のみだった。わたしの視線に気付いたワタリが、目で挑発してくる。
優勝という称号がほしいだけのワタリとは違い、わたしはこの大会の賞品だけがほしかった。
たまごっちを上手に育てられるようになった小学生のわたしが、本物のペットを飼いたいと言い出すまで、時間はかからなかった。
一人っ子のわたしのために、両親は子猫を買ってきた。茶色の毛並みが可愛らしいその子に、きびちゃんという名前をつけたのは、わたしだ。
「きびだんごみたいな色だから」
「ミユメはおもしろいこと考えるね」
その日から、我が家は四人家族になった。毎晩きびといっしょに眠るのが、わたしの幸せだった。あの日までは。
あの天気のいい日、わたしはきびとふたりで、留守番をしていた。
お昼すぎ、きびが窓の外を見て、にゃあ、と鳴いた。ずっと室内で育てられていたきびだったが、それを見たわたしは、遊びに行きたいのだろうと思った。わたしがよく読む絵本では、飼い猫がふらりと外に出かけるのが当たり前だった。
「いいよ、あそびにいっておいで。ママが帰ってきたら、ミユメもいくから、まってて」
ぐうとせなかを伸ばして、にゃあ、と鳴いたのが、わたしが見たきびの最期の姿だった。その晩、ようやく発見されたきびは、道路の隅で息絶えていた。ぼろ雑巾みたいになって。
あわは、現実の猫とは見た目も違うけれど、きびによく似ている。好きなもの、仕草、声。わたしはただ、きびによく似たあわに、この手で触れたいのだ。ごめんね、と抱き上げて、頬ずりをしたい。それだけだった。
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