一回戦、愛おしいきみ
「さあ早速、一回戦の競技、餌やりに参りましょう! ペットの満足度と料理の完成度を足し、合計値が高い方の勝利となります。制限時間は十分。では、はじめ!」
高らかなホーンの合図と同時に、わたしは「料理」のコマンドを選んだ。
この育成ゲームの中では、あらゆる食材を使って料理をし、それをペットに与えることができる。もちろんそれが手間であれば、餌を買って与えることも可能だ。だけど競技として行う場合、料理の完成度が五%になってしまう市販の餌を選ぶなど、ありえない。
「あわちゃん、何食べたい?」
いつものように、あわに話しかけながら冷蔵庫を見る。あわは「なー」と小さく鳴き、そっぽを向いた。お腹がすいていないようだ。普段ならミルクを与えるくらいで済ましてしまうが、競技中なのでそうもいかない。難度が高すぎないシンプルなハンバーグに決め、十分以内で完成させた。
「タイムアウト! まずは料理の完成度を見てみましょう。ミユメ選手のハンバーグ、八十四点。そしてワタリ選手のおにぎり、六十点。現時点ではミユメ選手がリードしています!」
そう言われても、満足度の数値が出るまでは少しも安心できない。昨日よろこんで食べたものを、今日もよろこぶとは限らないのだ。あわはおいしそうに食べてくれたが、少し焦がしてしまったからか、端の方を残した。
「あわちゃんの満足度……七十点。一方ワタリ選手、すごい! なんと九十八点です!」
九十八? 驚いてVRゴーグルを外し、ワタリの方を見た。彼は得意げな顔で、マイクを手にする。
「種族の好み、今日の天気、これまで食べたもの……すべてを計算して選んだメニューです。……それに」
わざとらしく溜めて、ワタリはにやりとする。
「空腹は最大の調味料、とも言います」
やや置いて、意味がわかる。怒りを抑えることができなくなった。彼は満足度を高めるためだけに、春臣くんの食事を減らす、もしくは抜きにしたのか。
負けるわけにはいかない。こんなワタリが優勝してしまったら、春臣くんが可哀想だ。
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