第3話 出立
腕輪に収納したものが、脳裏で鑑定され、その特性も分かることに気付いた。
意識しないと、分からないが、便利な力だろう。
驚くことに、自分の着ていたものを、鑑定してみると、ものすごい装備だった。
不壊
インナー、パンツ、ベルト、コート、総じてこの装備。名の通り、絶対に壊れることはなく、状態異常も無効である。暑い時には涼しく、寒い時に暖かくして快適な着心地を得られる。そして最後にこのローブを作った錬金術師により手を加えてあり、一見して高性能なマジックアイテムには見えないような隠蔽効果も付けられている。
空歩
ブーツ。移動速度の上昇、跳躍力の上昇。空気を蹴り、空を跳ぶことが可能。
初めてこれを見たときは愕然としたものだ。ボロボロの衣服掛けにかかっていた物が、ここまでの業物とは……
そんなことを考えている場合ではない。ゆっくりと家の扉、出口に向かって、歩いていく。
ノブに触れ、回して押す。
絶景だった。
建物の周囲には巨大な樹木が連なっているにも関わらず、何故か朝の清々しい光が差し込んでいる。周囲の空気も朝ということもあって非常に澄んでいた。もし森林浴をしたいという者がいたのなら、ここは絶好の場所だろう。……ここまで来れれば、だが。
そんな建物から1歩を踏み出し周囲の様子を確認する。
この建物を中心にして、結界が貼ってあるはずだ。
そして、その結界を1歩でも出たら、そこは既に魔物達の楽園。
仲間など、いない。だが、覚悟はできている。進んでいく。そしてしばらく、歩くと、家に貼られている薄い膜のような物が見えてきた。
あれが結界か。さすがに出るのは、緊張するが……何しろ、ここで出ないと餓死決定だ
食料は無い、と書かれていたが、さすがに数日分のものはあった。腹が空きにくい体質なのか、一週間、食料を持たせることができたが、今日の朝食で切れてしまった。
街に行ったとしても、身元の分からない自分に、安定して稼げる仕事は、斡旋しまい。だから、身元が分からなくても、手早く、大金を稼ぐ職業を探した。家の中には、大量の本が置いてあり、職業一覧、というものに当たりをつけ探すと、冒険者、という職業があった。
依頼を受け、達成したら金をもらう。上位の冒険者になるほど、稼げる金額は増えるとか。単純なのが一番いい。元々は傭兵のようなものだったが、いつのまにか、魔物を相手とする職業に変化していたようだ。
冒険者になるためには、ギルドで登録することが必要である。しかし、冒険者ギルドは余程大きな街でもなければ、ギルドの支部が無いらしい。つまり、自分の食費を稼ぐ為には、一刻も早くこの森を抜けて、大きい街へと行かなければならないのだ。
一歩踏み出し、結界の外に出る。途端に感じたのは、圧倒的な生き物達の、濃密な気配。
朝の新鮮な空気を吸い込みながら、森の中を歩き始める。
さすがに自分が眠っている間、何年も放っておかれただけあって、道らしい道は無い。見上げる程の大木が多数生えているので適当な間隔が開いており歩くのにはそれ程の苦労はない。
結界を出てからしばらく。時間にすれば三十分ほど、だが速度を上げる空歩を履いている自分は、かなりの速度で森の中を進んでいた。
少し先に赤い果実らしきものがなっている木に目を止める。その木の前まで移動し、手を伸ばして木から生えている果実をその手に取る。
オランジェか。酸味があって、美味いが、故に魔物に狙われやすい、だったか?
無用な戦闘は避けたい。ここから離れるのが無難か……
しかし、遅かったようだ。右の茂みの奥に気配を感じる。正直、野生動物だと、かなり嬉しい。首とって終わりだからな。
それを裏切って、のっそりと姿を現したのは、一見したところ体長2m程度の熊のように見えた。しかし、真っ白の毛皮の上に水を纏っているような熊は、どう考えても野生動物というよりは、魔物だろう。
大きさは2m弱で、見るからにがっしりした身体付きをしており、同時にその白い毛皮には水を纏っていた。また、両方の手から30cm程の鋭く長い爪、そして口からは長い牙がのぞいており、禍々しさを感じさせる。沈黙を破ったのは当然の如く目の前にいる熊だった。
「ガァァアアア‼︎」
周囲一帯に響き渡るような雄叫びを挙げ、唾を撒き散らしながら、四つん這いで襲ってくる。
戦闘時は、己を俯瞰できるほど冷静に、それでいて即座に対応できるように、身体を熱く。それが大切だ。
獲物が逃げずに自分の方へと向かって来たと認識した熊は、牙を剥き出しにしながら、移動した速度も合わせてその太い腕を広げ、爪を自分へと振り下ろす。
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