第2話 手紙
ゆらり、ゆらりと、進む。矢印は、次に部屋に向かって、伸びている。
扉を見る。奇妙で、禍々しく、それでいて、美しい。そんな紋様が、描かれている。
本能的に、ここが危険だと、分かる。なぜかは分からない、ただ、本能的な、体に直接訴えるような、悪意、善意。二つが混ざり合い、言いようのない、恐怖が、体から、魂から溢れ出る。
だが、自分の歩みを止めることはできない。紙に書かれた、なんの強制力のない、言葉だけの、指示、約束。自分は何をしなければいけないのか、全く分からない。従うしかない。
扉に触れる。フワリと、一瞬、紋様が黒く輝き、扉が消滅した。この部屋だけ、異常に広い。床には、扉に描かれた紋様が、そっくりそのまま写されている。そして、部屋の隅には掌大ほどの、小さな箱が一つ。よく見ないと気付かないであろう場所に、ポツリと、置かれている。
何か、入っているのだろうか?ならば、何が入っているのだろうか?
紋様の場所は意識的に避け、箱の元へ移動する。
蓋を、開ける。
出てきたのは……
「腕輪、か……?」
箱の中に入っているものを、取り出す。用途的には、腕輪で間違い無いだろう、それが、二つ。
箱の中に仕舞われていたのだから、何か重要な、もしくはなんらかの効果のあるもの……なのかもしれない。
チラリと、箱の中に黄ばんだ何かが見えた。やはり、と思う。前の2部屋にあったのだから、この部屋にも無いと、少しおかしい。
箱の底にある、折り畳まれた紙をつまむ。
紙を開いた。
腕輪の中には、お前に必要な道具が入っている。
念じれば、分かるだろう。
腕輪をつけたら、紋様の上に立ってくれ。
紙がパラパラと、崩れていく。
腕輪を両腕に嵌めようとする。すると、幾分か自分には大きかった腕輪が、縮まりちょうどいい大きさになる。ピッタリと、腕輪は装着された。
避けていた紋様の上まで、ゆっくりと歩いていく。何回も見たからなのか、恐怖は少し抑えられているようだ。
何者かが書いた文字が、紋様の上に立った時、ちょうど正面に見える。
かすれてよく読めないが、二言、永遠の命、チカラ。これだけは、読むことができた。
紋様が、何を意味し、何をするのか、分からない。けど、何故か自分に害を及ぼすことはない、ということは理解してしまった。
紋様が輝く。反射的に目を瞑る。瞬間、フワリとした浮遊感に襲われる。しかし、すぐに地面の感覚を得ることができた。
目をゆっくりと開ける。先程の無機質な空間とは違い、暖かな光が、自分に降りかかる。
近くの机に置いてある、水の入った桶に、自分の顔を映す。今まで、自分がどんな姿をしているかなんて、分からなかった。ちょうどいい。
自分には、顔の良し悪しは分からないが、そこそこ上の方なのではないか?そして、漆黒の髪。金の瞳に、縦に割れた瞳孔。
気味が悪い。自分自身にいうのもなんだが、瞳孔が縦に割れているのは、人間ではあまり、いや殆どいないのではないか?だが、ソレが自分という存在の一部。変えることはできない、不変の事実。
だからこそ、一時持った感情を吐き捨てる。
そういえば、手紙を読むのを忘れていた。
ポケットから、黄ばんでボロボロの紙を、一枚取り出す。
まず、お前に謝っておく。すまない。
こうするしか無かったんだ。これを書いてからお前が目覚めるまで、何年空くか分からないが、自由に生きてくれ。
一応説明しておくが、あの紋様はお前ように完全調整されたものだ。一度お前が使えばアレは消滅する。
アレが施術者から魂を吸収する。そしてその吸収した魂によって能力が生み出される。尚、生み出される能力に関しては施術者の内面、性格、深層心理、趣味嗜好といった様々な要素が複合的に関係してくるので自分で任意に選んだりは出来ない。
これにより生み出された能力は、ある特性を持っている。
何かを殺すことにより、能力の特性にもよるが、より強く、より強大に、より素早くと進化していく。そしてその進化は千差万別。まさに無限の可能性、と称されるのに相応しい可能性を持っている。
その進化の先。即ち能力が、どこまで強くなれるのかについては、理論上では際限が無いとなっている。
その紋様から得られる能力は、己と共に育っていくチカラ、とでも言い換えられる代物なのだ。
それと、お前には自由に、好きに生きてもらうために、永遠の命も付与する術式にしている。
手の甲に紋様が入ってると思うが、一応ほかの人間にこれは見せないようにしてくれ。腕輪の中に、黒の手袋を入れておいた。それをつけてくれ。
これらは、償いだ。いらないなんて言うなよ。どうか受け取ってくれ、といってもこれを読んでるということは、家に来ているだろう。そこも好きに使え。ただし、食料は無いから早めに街に行った方がいいぞ。
最後にもう一言。ボクはいつも見守っている。
最後の一枚だけ、とても長かった。主に、紋様に関する説明だったが、自分と何か深い関係にあるということは、読み取ることができた。
しかし、能力か。自分がどんな能力なのか、それは読んでいる最中に何故か、理解できた。
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