第41話
カリスはデスラにアイデアを話してみた。
「ふむ——。面白い考えじゃの……」
そう言って黙り込んでしまった。
「いかがでしょう?」
国の重大事をこんな形で解決していいのか?
カリス自身、そう思っている。デスラが悩むのも当然だ。
「儂は、やはり、確実な方法を採るべきじゃと思う」
「ユーゼを排除する、ということですか?」
「残念じゃがの——」
「前にも言いましたが、わたしたちがユーゼを殺害したと知れば、市民の反発は避けられません」
「わかっておる。じゃが、ユーゼを生かしておけば、内乱に繋がる恐れがある以上、仕方がない」
カリスが想定していたより、デスラは頑なだった。
「ユーゼは気のいい青年です。なんとか、生かしてやれないでしょうか?」
「ダメじゃ、やはり殺すしかない」
デスラは殺すと頭ごなしに決めつけていて、いつもの柔軟性を欠いてるようにも思える。
「ユーゼと話をしてみてください。お気持ちが変わると思います」
「ニコラウスよ、これは政治的な判断じゃ。感情に動かされて決めるような話ではない」
「それはそうですが……。わたしには、デスラ殿も感情的になっているように見えます」
「儂がか?」
「そうです。大変申し上げにくいのですが——、デスラ家は没落貴族、王族や門閥貴族たちに対する羨望の気持ちが無かったと言い切れますか?」
「……なんとも失礼なことを言う。確かに、そのような感情はあるかもしれん——。じゃが、この判断は感情に流されて決めたものではない。やはりユーゼは処刑すべきじゃ」
「しかし、それではユーゼがあまりにも——!」
「もう止せ」とデスラが遮った。「決めたことじゃ。準備が整い次第、決行する」
カリスは退出すると、外遊を装い異世界への窓口をくぐった。以前かかってきたマロンの番号を探し、電話をかける。
「カリス、どうしました?」
「もう時間がない。ユーゼは近々処刑される」
「情報ありがとうございます。それでは、明日の夜、実行しましょう」
「どうすればいい?」
「陛下をこちらの異世界側まで連れ出してください。城を出るためには、あなたの“顔”が必要です。そして、異世界への窓口を通るには、あなたの“職権”を上手く使ってください」
『職権を上手く使う』とはつまり、パスポートを偽造しろ、ということだ。
「部屋からはどうやって出す? こっち側に着いたらどうすればいい?」
「陛下の見張り番はこちらの手の者なので、問題ありません。異世界側には迎えの車を用意しておきます。いいですね?」
「わかった」
「グライプ国側では携帯が使えません。不測の事態が起こった場合は、陛下の見張り番を使って、こちらに知らせてください」
カリスは電話を切った。
これから忙しくなる。一人では到底アイデアを実行できない。
カリスはホクトに電話し、段取りを伝えた。
「明日の夜までに用意できるか?」
「大丈夫です。それにしても、相変わらずの策略家ですね」
「そんなことはない。ユーゼを助けたい一心でやっているだけだよ」
あとはあちら側の準備を整えなくてはならない。
カリスはグライプ城に急いで戻るのであった。
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