第39話

 ユーゼ王を助けるには、彼に王政を復活させる意志がないことが前提だ。カリスは会って確かめることにした。

 ユーゼはオランジェ城の一室に軟禁されている。見張りに話をつけ、中に入る。

「何をしに来た?」

気丈に振る舞っているが、ユーゼ王の大きな目には不安と恐怖が見て取れる。

「あなたの考えを知りたいのです。仮にここを出られるとして、何をなさりたいですか?」

「この国は貴様らによって変わってしまった。もう、余にできることなど何もない。どこか田舎に引っ込んでやるから、早く出せ」

「本当に? 貴族たちを従えて、現政府に歯向かう意志はないんですね?」

「それは……」

口籠るということは、多少はそういうことを考えていたということだろう。

「旧支配勢力に協力する可能性がある内は、あなたをここから出すわけにはいかない」

カリスは部屋を出て、今後、ユーゼ王が誰かと面会するした際は、自分に報告するよう見張りに指示した。手紙が届いた場合も、全て事前に目を通すことにした。

 時間がない。デスラとグラディウスは、いくら自分が反対しても、ユーゼ王を殺害するだろう。いつ実行に移されてもおかしくない。

 かといって、処罰を覚悟で逃しても、貴族たちと連携を取る可能性が高い。特にマロンが放っておかないだろう。

(デスラ殿が言うように、綺麗事で政治はできないのか……?)

カリスは知恵を絞ってみたが、妙案は何も浮かんでこなかった。

 翌日以降、カリスはどうしても無理な場合を除いて、全ての外遊をキャンセルした。国を留守にしている間に、ユーゼが殺される危険がある。

 また、彼に不審な点が見当たらないか、頻繁に会いに行くことにした。

 その日は、部屋の中からユーゼの歌声が聞こえていた。なかなか上手い。

「おう、また来たか」

何週間かする内、ユーゼは警戒しながらも、多少はくだけて話すようになっていた。

「今の歌は?」

「異世界の歌だ」

「異世界の歌? どこでお聞きになったんですか?」

「いや……、それは……」

カリスは部屋を漁った。

「おい! 止めろ!」

机の中に異世界の機械が入っていた。確か、ウォークマンというやつだ。

「誰からもらったんですか?」

「……言えない」

「マロンですか?」

ユーゼが大きく目を見開いた。

(こんな差し入れを報告しないなんて……。あの見張りはクビだな)

「他にマロンから連絡はありませんか?」

ユーゼは首を振った。

「立場をよく考えてください。現政府にとって、あなたは邪魔者です。正直に話した方が身のためです」

ユーゼは渋々ベッドの下から、一通の手紙を取り出した。

 それは、いくつかの有力貴族が連名で記したもので、いずれユーゼを救出すること、その際は再び王として君臨してほしいことなどが書かれていた。

「これは、没収します」

「……なぜ、余はこんな目にあうのだ?」

「何度も説明したはずです。王政を復活させないためです」

「別に……、余は王に戻りたいわけではない……」

「そうですか? わたしが異世界から戻った時、あなたは王座にしがみついているように見えましたが?」

「それは……、王になれば、みなが愛し、尊敬してくれるからだ。そして自由になれるからだ。何も政治がしたいわけでも、臣民を苦しめたいわけでもない。王に戻れないなら、せめて自由にさせてくれ……」

「——今はまだ、難しいです」

「いつ? いつになったらここを出られる?」

「わかりません。でも、努力します」

カリスはデスラに会い、没収した手紙を渡した。

「ここにある貴族たちに気をつけてください」

「やはり、ユーゼの奪還と、王家の復興を目論んでおったか。奴の処分を急がねばならんようじゃな」

デスラは苦渋の表情を浮かべた。殺したくて殺すわけじゃないのが、よくわかる。

「なりません。もし、わたしたちが殺したと外に知れれば、政府は一気に求心力を失います」

「ユーゼが死ねば、貴族どもは儂らが殺したと叫び回るじゃろうな……」

「明日から、国連総会に行って参ります。わたしが戻るまで、くれぐれもユーゼには手出しをしないでください」

「——わかった」

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