第30話

 追われる身となったカリスたちは、大きな街を避け、小規模な村を転々とする旅を続けていた。

 保存食など、手に入る物質の品揃えは悪く、価格も高いが、その他にこれといって致命的な支障はない。

 各村にゲドラフをはじめとする魔物食や、ゴトラの石鹸を伝えて回っている。

「思ったんだけどさ」移動中にマモルが呟いた。「こうやって魔物の利用価値を伝えて回っていたら、追手がいつまでも追いかけて来るんじゃない?」

「——うわぁあ゛あ゛あ゛!!」

カリスは、これまで出したことのないような奇声を上げた。

「何で気がつかなかったんだ! 間抜けすぎるだろ!」

追う側からしてみれば、カリスたちが伝え回っている事柄を知っている土地を辿ると、必ず追いつけるのだ。

「ちょっと、カリスさん。大丈夫?」

マモルが恐る恐るカリスの顔を覗き込む。

「取り乱してすまん。マモルの言う通りだ——。完全にわたしの失態だ……」

「これからは、あまり現地の人に接触しない方がいいね」

「そうだな……」

カリスはがっくり肩を落とした。

 しかし、ものの数分でカリスは頭を切り替えていた。列侯会議で計画が否決された時、グラディウスとともに謀反人にされた時もそうだが、起きてしまったことを永く引きずらないのが、カリスの性分だ。

(この状況を上手く使えないだろうか? 追手が手掛かりにしているものがわかった。何か裏をかく方法はないか?)

頭を抱えていると、前方から行商人の一行が向かって来るのが見えた。

(これだ!!)

カリスは馬車を飛び降り、商人に話しかけた。

「旅の途中に申し訳ない。実はあなたに売りたいものがある」

「ほう、何かな?」

馬車からゲドラフの干し肉とゴトラの石鹸を持って来る。

「どちらも魔物から作ったもので、王都ではとても流行っている。どうか買い取ってはもらえないだろうか?」

「魔物から? ふむ……、試してみてもいいか?」

「もちろん」

商人は多少不安げに干し肉をちぎり、口に入れた。

「ほう、なかなかいい味じゃないか。この石鹸も泡立ちが良さそうだ。で、いくらで売るつもりだ?」

「全部で二万キヤルでどうだろう?」

「んー、高いな。一万五千」

「一万七千五百」

「よし、買った」

カリスは干し肉と石鹸を渡し、加えて製造方法を伝えた。

「あなた方は、どちらへ商いに行かれる予定なのだ?」

「さし当たっては西へ」

「できれば、これらの製造方法を行く先々で広めてもらえないか?」

「ゲドラフもゴトラも数が多いからな。減らせることができれば、人間の被害も抑えられるだろう」

この商人は頭が良い。カリスの意図をいち早く理解した。

 カリスは商人に別れを告げ、馬車に戻った。

「これで追手を撹乱できればいいが……」

一行は再び進みだした。

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