第29話

 デスラは早速尚書院へ向かった。

「昨日、外交局局長に就任したトマス=デスラじゃ。外交局の過去文書を閲覧しに来た」

係の者が書棚に案内する。

「しばらく時間がかかるから、放っておいてくれ。何しろ、外交は今まで馴染みのなかった分野での。一から勉強じゃ」

「それでは、終わりましたらお声かけください」

男は受付に戻って行った。

「さて——」デスラは棚から適当な公文書を抜くと、懐から薄紙を取り出した。国王の印章を丁寧に写し取り、それを懐に戻す。

 どう考えても、本物の印璽を拝借するのは無理だった。それなら、捏造するのが手っ取り早い。

 その後は適当に時間を潰し、頃合いを見計らって外交局へ戻った。

(公文書偽造、儂も立派に犯罪者の仲間入りじゃな)

薄紙に写し取った印章を赤いインクではみ出さないようになぞり、あたかも印鑑のように、先ほど作成した書面に押しつける。

 準備は整った。後はカリスがこれを取りに来るのを待つだけだ。

 デスラは書面を懐に入れた。ここに置いておくのは危険だ。誰かが探りに来るかもしれない。家に持ち帰ることにした。

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