第26話

 翌朝、カリスは夜明け前に目が覚めた。まだ旅に不慣れで、野営の夜は熟睡できない。

 寝不足の頭を持ち上げ、カリスは馬車を降りた。

 もうすぐ日が昇る。日の出はどっちかな、と周囲を見回すと、遠く来た道を一団が向かって来るのが見えた。

(こんな朝早くから移動を始める人がいるのか)

どんな人だろう、と目を細めると、それが甲冑を纏った兵士だとわかった。

(マズい!)

カリスとグラディウスは反逆罪の大罪人だ。

 カリスは彼らの視界に入らないよう、馬車の陰に隠れながら、グラディウスに近づいた。

「おい! 起きろ!」

「どうした?! 魔物か?」

「違う、兵士だ! 隠れるぞ!」

グラディウスは急いで馬車を降りた。

「みんなは、何か聞かれたら適当にはぐらかしておいてくれ」

そう言うと、カリスはグラディウスを連れて、比較的背の高い草の中に身を伏せた。

 様子を伺っていると、やがて兵士団はホクトたちのもとにたどり着く。

 ホクトと何か話をしているようだが、遠くてよく聞こえない。

 初めはただ話をしているようだったが、そのうち、兵士が馬車からミナミたちを引きずり出した。

「何しやがる!!」

グラディウスが堪えきれずに飛び出す。

「うおおぉおおお!!」

雄叫びとともに兵士の集団に強烈な体当たりを食らわせた。

 と同時に、カリスは兵士たちの馬に向かって駆け出す。奴らの馬に思いっきり鞭を入れた。「ヒヒーンッ!!」という大きないななき声を上げて馬は四方八方へ走っていく。

「逃げるぞ!」

追いすがる兵士を振りほどいて馬車に乗る。一行を乗せた馬車は全速力で走り出した。

「どうしてホクトたちを捕まえようとしたんだ?!」

カリスは馬を操るホクトに問いかけた。

「あなたたち二人が僕たちと一緒にいるのが、知られていたんです!」

とすると、自分とグラディウスだけでなく、ホクトたちもお尋ね者になってしまったということだ。

「すまない。巻き込んでしまって……」

ホクトは何も答えず、馬を走らせ続けた。

「兵士の人たち、大丈夫かな。魔物に襲われたりしてたら、どうしよう?」

ミナミは今にも泣き出しそうだ。

「甲冑で武装していたから、きっと大丈夫だ。仲間と連携をとっていただろうから、すぐに拾ってもらえるさ」

「だといいんだけど…………」

しばらく走り、かなり距離を取ってから速度を落とす。

「このまま道なりにビーワの街に行くのは危険だ。進路を変えよう」

一行は西に逸れてメローの街に向かうことにした。メローまでは3日の行程だが仕方ない。

「ちょっと四人で話をさせてくれませんか?」

カリスとグラディウスが馬車に残り、ホクトたち四人は降りた。

「なあ、俺たち、パーティーを外されるのか?」

グラディウスが不安そうに呟く。

「わからない」

ホクトが戻って来て、再び馬車を走らせ始めた。

「話はどうだったんだ?」

グラディウスが堪らず聞いた。

「後で話します」

ホクトはそれだけ言うと、後は無言で馬車を走らせた。

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