第19話
カリスは狩りのため石壁の外に来ていた。時間が許す限り異世界転生者のパーティーと狩りをすることにしているが、今日は都合の良いパーティーが見つからなかった。それに今回の獲物は比較的危険が小さい。
狙いは前方のメメ。小型で長い毛に覆われた魔物。服飾に利用できないか検証する目的で、サンプルとして研究所に持って帰るつもりだ。
気づかれないよう風下から隠れて近づく。
射程に収めると、立ち上がって毒矢を射かけた。
普通の弓の威力なら矢が毛に阻まれる可能性もあるだろうが、カリスの弓は強力だ。貫通せんばかりに突き刺さり、メメを一撃で仕留めた。
その場で血を抜き、戻って研究員に引き渡す。
「お見事ですね。ニコラウスさん」
「いや、恐縮です」
「大事に使わせてもらいますね。それはそうと、科学技術局に勤めている友達から聞いたんですが、局長のデスラ様が退かれるそうですよ」
「え?! そうなんですか?」
初耳だった。
「何でも、確かグラーゼ家だったと思うんですけど、ある貴族の権勢が増していて、ポストを追い出されてしまったとか」
グラーゼ家といえばマロンの家だ。彼の妹は未来の王妃、政府内での力が増すのも道理だった。
デスラには世話になったので、早いうちに会って話がしたい。
「デスラ殿がいつ局長を外れるか知ってますか?」
「さあ、そこまでは……。ただの噂で、まだ正式に発表されてないみたいですし。少し時間がかかるんじゃないですか?」
「そうですか、ありがとうございます」
今日はこれからハフマン、ベルと石壁外のハンター拠点について検討する予定だ。デスラには明日会いに行くことにした。
「融資は引き出せそうですがギリギリです」
ベルが渋い顔で言った。
施設の詳細を定め、建設業者には発注済み。明日から作業を開始する。建設中の護衛は、王都に留まっている異世界転生者パーティーに声をかけて、何とか手配した。後の問題は資金だけだ。
「マロンさんの出資が間に合わないと、決済できません」
先日約束した十日を過ぎても、マロンからの出資はなかった。
「わかった。明日、もう一度督促してくる」
マロンにはこの建設計画を聞かせていて、決済の日付も知っている。「決済までには用意しますよ。安心してください」彼はそう言っていた。
(そういえば、実家が反対で、マロンの個人的な資産からの出資だったな。実家がマロン個人による出資にも反対しているのかもしれない)
その後、三人で明日以降の動きを綿密に確認し、解散した。
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