第14話
翌朝、カリスは南門でタクヤたちと合流して石壁の外に出た。頻繁にシャッコーが目撃される水辺に行くと、首尾よく水浴びをしているところを見つけることができた。
獲物は一匹。周りに他の魔物はいない。
ゴロウが氷結魔法で不意打ちすると、タクヤと剣士ツヨシが襲いかかる。シャッコーはろくな抵抗もできないうちに仕留められた。
「さすが、みなさん強いですね」カリスは心底感心した。「どうして、そんなに強いんですか?」
「それは、ちょっと言えないな」タクヤは血抜きのために、シャッコーの頸動脈を探っている。
「わたしも、あなたたちのように強くなれますか?」
「それは無理だろうな」
それを聞いて、やはり、と思った。タクヤたちは、鍛錬して強くなったわけじゃない。何か特別な方法があるから、"言えない"し、カリスには"無理"なのだ。
(しつこく探りを入れると、今後、魔物狩りに協力してもらえないかもしれない……。これ以上、詮索するのは止めておこう)
シャッコーにロープをかけ、引きずって石壁の内側に戻り、レイスの店に行った。
「なんだ、お前たち、また来たのか?」
店番中のレイスがカリスたちを見つけるなり声をかけた。
「おぉ、今日はシャッコーか。腕が鳴るな。レシピはあるのか?」
カリスがレシピを渡す。
「マリネか。ウチにある材料じゃ足りないな」
「わたし、買ってきます」
カリスが食料品店を数件回って帰ってくると、すでにシャッコーは解体され、その一部が一口サイズにカットされていた。
オイルをかけ、スパイスをまぶしたら完成だ。買ってきた野菜を添えて食べる。
「美味い!!」
シンゴが歓声を上げた。
カリスはもっとカットしてくれるよう、レイスにたのんだ。マリネにして、包みに入れる。
「街の人にも試食してもらいます」
店を出て大通りに立つと、道行く人たちに語りかけた。
「さあさあ、ご注目!! ここにあるのは魔物、シャッコーのマリネだ!! 今日は大サービス!! お台無しの試食だ!! 食べなきゃ損だよ!!」
(子どもの頃に武器店で呼び込みをしていた経験が、まさかこんな形で役に立つとはな)
通行人が「何事か?」と足を止める。初めは怪しんで眺めているだけだったが、一人が食べると後は早かった。
「美味しい!!」「本当に魔物なの?」
大量に持って来たマリネが、どんどん無くなっていく。
「これは、どこで売っているのかしら?」
年輩の女性が、これから買いに行きたいとばかりに尋ねた。
「えーっと……、レイスさんの精肉店です。ただ、今日はお披露目だけで、店頭には明日から並びます」
「そう、わかったわ」
持ってきたマリネが無くなり店に戻ると、レイスとタクヤたちが酒盛りを始めていた。
「おう、戻ったかい。うぃ〜、あんたもこっち来て飲め」
レイスはすでに出来上がっており、上機嫌だ。これなら、頼みごとをしやすい。
「さっき、明日からシャッコーのマリネをこの店で売るって、言ってきちゃいました」
「え〜? 本当にぃ?」
「勝手にすいません」
「構わねぇ、構わねぇ。まだ肉が残ってるからな」
「ありがとうございます」
カリスも飲み始めたのだが、レイスはすぐに潰れて、床に寝転がってしまった。
「こんなところで寝ると、風邪をひきますよ」
起こそうとしても、レイスはまったく反応せず、大きないびきをかいている。
(これじゃ、目が覚めた時には、今、話したことを忘れているかもしれないな)
カリスはレイスの酔いが覚めるのを待って、もう一度話をすることにした。
——案の定、レイスは何も覚えてなかった。
明日、シャッコーのマリネを店頭に並べることには賛同してくれた。だが、一度売り出す以上は、きちんと安定的に供給したい、というのがレイスの方針だった。
「シャッコーの肉が無くなったらどうしようもない。『無くなり次第で終了』じゃ、せっかくウチに来てくれたお客さんがガッカリして、離れてしまうじゃねぇか」
「では——」とカリスは提案した。
「タクヤさんたちや他のパーティーが狩ってきたシャッコーを仕入れてみたらどうですか?」
「そうだな……、売ってくれると助かるが、価格次第だろうな」
「それじゃ買値を決めましょう」
「マリネ一食分を四キヤルとしてーー」
ああでもない、こうでもないと検討して、シャッコー一匹あたり二千キヤルに定まった。
「タクヤさんたちはどう思いますか?」
「正直、手っ取り早く稼ぐ方法ができるのは、ありがたい。俺たち、政府から貰う支度金が尽きてからは、行商人の護衛とかで金を手に入れてたからな」
「明日か明後日にはゲドラフの干し肉が出来上がるでしょうから、今日みたいに通りに出て通行人に食べてもらうつもりです。たぶん、店頭に出せば売れると思います」
「あんたがそう言うなら、きっと美味いんだろう。ゲドラフの買値も決めておくか」
ゲドラフは一匹あたり三千五百キヤルとなった。
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