第10話
列侯会議を終えて魔物対策局に戻ると、召集をかけた訳でもないのに、程なく主要メンバーが集まった。
「すまん、儂のせいじゃ。票固めは出来ておったのじゃが……。奴ら、土壇場で態度を変えるとは……。こんなことなら、書面にでもしておくんじゃったわ」
デスラが心底口惜しそうにぼやいた。
「申し訳ないです。ウチの局長、まさか反対するなんて……」
ハフマンが頭を下げた。いつも冷静なベルも意気消沈している。
「例え書面にしておいたとしても、彼らは反対に回ったでしょう」
カリスは淡々と私物を片付けていた。
「どういうことだ? ニコラウス」
グラディウスは尚も憮然としていて、先ほどの結果に全然納得していないようだ。
「昔、デスラ殿が軍を使った魔物駆除施策を提案したそうです。その時は、王族の圧力があって叶わなかったと。今回も脅しを受けていたそうです。わたしが降格されたのも、この計画が原因です」
「何?! 何でそれを先に言わない!」
「グラディウス殿たちに心配をかけたくなかったのじゃ。それに……、列侯会議で可決されたしまえば、いくら王族といえども計画を止められんじゃろうしの……」
「そもそも可決されないのでは、話にならんではないか!!」
「確かにその通りじゃ。面目ない……」
「わたしたちでいがみ合っても仕方ないですよ。ねっ」
ハフマンが二人の間に割って入った。
「それにしても、グラディウス将軍がここまで熱心に協力してくださるとは、思いもしませんでしたよ」
マロンが場をなだめるよう、落ち着いた声で言った。
「俺も最初はグラディウス家のために加わったが、今となっては臣民のためだと思って働いている。お前たちが真剣に取り組んでいる様子を見て、それまでの自分が恥ずかしくなったのだ。気づかせてくれて感謝している」
「想いを素直に表現できるって、素晴らしいですね」
マロンが感心した。
「わたしも——」とベルが口を開いた。「これまでは、ただ言われたことをミスのないようにこなすだけでした。ここまで情熱を持って仕事をしたのは初めてです」
「悔しいの……。皆がここまで頑張ったというのに」
「いくら頑張っても、無駄です」カリスの言葉は冷静だった。「わたしは確信しました。この国の首脳陣に魔物をどうにかしようする意志はまったくない」
荷物を詰め込み、箱を閉める。
「……お主はさっきから一体何をしているのじゃ?」
デスラがカリスに顔を向けた。
「整理しているんです。辞めようと思うので」
「何ですって?! ちょっと待ってください、カリス!」
マロンが驚いてカリスの腕を掴んだ。
「わたしはこの計画のために王国政府に勤めていました。もう、ここにいる理由はありません」
「何?! 貴様、諦めるのか?!」
グラディウスがカリスに詰め寄り、胸ぐらを掴む。
「ここまで反対されているなら進めるのは到底無理です。わたしは民間で取り組みます」
カリスはグラディウスの手を振り払い、箱を抱えた。
「今回の計画を民間事業として起こすので、資金提供してくださると助かります。そのうち、お願いに伺いますね。みなさん、お世話になりました」と頭を下げる。
「お主、そこまで——」
「せっかく企画書もできたことですし、わたしは絶対に諦めません」
カリスは微笑んで言った。
「俺も、俺も辞めるぞ!」
「グラディウス殿はどうかそのままで。今の地位にいるからこそ、できることだってあります。それでは、お元気で」
再び頭を下げて、カリスは魔物対策局を後にした。
外に出て振り返り、グライプ城を仰ぎ見る。巨大な城を前に、自分はなんとちっぽけな存在だろう。
(城の中でやれることは、全部やった)
そういう満足感はある。——が、目的は何一つ達成していない。
(絶対に諦めない。諦めてたまるか)
カリスは心の中で何度も繰り返した。
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