第6話
面談室には、カリスとマロン、そして科学技術局の補佐官と勇者一行が待っていた。今日一組目の面談だ。今朝はデスラが遅れている。
「遅くなってすまんの。さあ、始めてくれ」
デスラは早足で部屋に入り、席についた。
「それでは始めます。魔物対策局局長のマロン=グラーゼです」
デスラが目を見開いてカリスとマロンを見比べた。無理もない。
「隣のカリス=ニコラウスより魔王討伐出立までの段取りを説明します」
カリスらいつも通りの流れを説明し、科学技術局からの質問も行われて、面談は滞りなく終了した——。
「何がどうなっておる?」
面談室を出るなりデスラが尋ねる。
「今朝一番にリシュー宰相から呼び出しがあって、わたしが局長、カリスが副長に任命されたんです……」
マロンが何とも言えない表情で答えた。
「どういう理由でそのような人事になった?」
「宰相が言うには、わたしが『魔物対策局局長としての職務を十分に果たしていない』とか何とか。要領は得ませんでしたが……」
「要するに、ただの言いがかりということじゃな?」
デスラは今朝自宅で起こったことを話した。
「儂は曲がりなりにも貴族じゃから、いきなり職位までは剥奪されんかったということじゃろう」
「きっと、そうなんでしょうね」
平民のカリスには後ろ盾がない。王国政府にとっては、いくらでも替えが効くゲームの駒のような存在なのだろう。財力も権力も何もないから、脅す必要すらなく、切り捨ててしまえばいいというわけだ。
「お主、あまりショックを受けとらんようじゃな」
「ええ、まあ。わたしの前の局長は自由に仕事させてくれませんでしたが、マロンが局長ならそんな心配はないですから」
「地位に未練はないのか?」
「特にないですね」
「それにしてもデスラ殿もお気の毒でしたね。心中お察しします」
マロンが心痛な面持ちで言った。
「ああ、まったくじゃ。卑劣なことをしよるわ」
「やはり、王族による圧力ですか?」
「おそらくな。じゃがな、儂は諦めん。列侯会議で可決されれば、王といえども覆すこおはできん。だいぶ根回しも進んでおる。過半数の賛成は固いはずじゃ」
デスラの拳に力がこもるのがわかった。
「計画は中止じゃないんですか?!」マロンが驚きの声を上げた。「命の危険があるってことですよ? 殺されたら、魔物の駆除どころじゃありません!」
「マロン殿は降りるか——。致し方ない。ニコラウスはどうするのじゃ?」
「わたしはやります。そのために魔物対策局に入りました」
「カリスまで!! これ以上は何をされるかわからないんですよ?!」
「わかってる。でも、危険を犯してでもやる価値があると思う」
「そんな…………」
「マロンは遠慮せず降りたらいい。身の危険だけじゃなく、グラーゼの家名にも傷がつくかもしれない。今まで一緒に計画を立ててくれて、ありがとう」カリスはマロンの肩をポンと叩いた。「後はデスラ殿とわたしに任せてくれ」
「ああー、もう! わかりました、わかりましたよ! 降りません! まったく、本当に世話の焼ける人だ!!」
「いや、無理に参加しなくてもいいんだぞ?」
「いいんです! もう決めたんです! こうなったら徹底的にやりましょう!」
重い雰囲気を振り払うかのようにマロンが明るく——というか、焼けくそ気味に言った。
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