第3話

 デスラがプランAに乗ると言ってきたのは、それから二、三日後のことだった。

 その日は二十組もの異世界転生者と面談があったが、最後の組の後、カリスとマロンは科学技術局に来るよう言われた。

「お主らのプランAとやらに乗ろう」

二人が部屋に入るなりデスラは宣言した。

「ありがとうございます。しかし、どういった心境の変化でしょうか?」

「儂はの、自分が危険を犯して動かなくとも、いつかは無能な転生者が魔物を駆除してくれるものと、どこかで期待しておった」

「じゃがな——」と言って机の書類をカリスに渡す。「これを読んで気が変わった」

それには『第二次世界一周記録』とタイトルが振ってあった。

「読んでもいいですか?」

「もちろんじゃ」

カリスの傍からマロンも覗き込む。

 世界は球体だという知識が異世界転生者からもたらされて以降、科学技術局はそれを確めるべく、数度に渡って探検隊を派遣していた。魔物が生息する中を進むため失敗が多かったが、七年をかけて最初の世界一周に成功。王都の西門から出発して東門に戻ってきた。世界が丸いことを証明するもので、大きな成果だった。本件は二度目の世界一周記録であり、一度目の経験を活かして僅か一年で成功させたものだ。

 記録には、王都の北門から出発し、世界の北端アルナ地方を抜けて南端ガルア地方に出てきて、南門へ至ったと記されている。

「すごい……。これで世界が球体だと証明されたわけですね!」マロンが歓声を上げた。

「いや、マロン、それは違う……」

「どうして? 北から南へぐるっと回ってきたってことじゃないですか?」

カリスは壁に貼ってある世界地図を指差した。

「見ろ。本当に世界が球体なら、ここから真北のアルナ地方を抜けた後は、王都から北東もしくは北西の果て、マフザ地方に出るはずだ。いきなり王都真南のガルア地方に出ることはない」

世界地図を見つめてマロンは気がついた。

「あっ……」

「つまり、この世界は……」

「そう、球体ではなく円環型をしているということじゃ」デスラが答えた。

「転生者たちが嘘をついていたということでしょうか?」

「たぶん違うじゃろう。おそらく奴らの世界は球体なのじゃ。だから儂らの世界もそうだと思い込んでいたんじゃな」話しつつパイプに火をつける。

「じゃが、儂は、奴らの知識がこの世界に必ずしも当てはまるわけじゃないことを知った。そして決心したのじゃ。儂らの世界の問題は、やはり儂らで片付けなきゃならん。これ以上、異世界転生者を当てにしてられん」

「はい、わたしもそう思います」

カリスは記録をデスラに返した。

「今後の段取りじゃが、関係者には儂から根回ししよう。計画はお主らの発案じゃが、ニコラウスは最年少の局長級、しかも貴族でない。儂が話した方が話が早かろう。誰に話せばよいかの?」

カリスは財務局局長の他、何名かの列侯会議出席者の名を挙げた。

「確かに——。彼らを取り込むことができたら、可決されるじゃろうな」

「来月の列侯会議の議案として、魔物対策局から登録申請しておきます」

カリスはマロンに目配せした。

「了解です、カリス。申請しておきます」

「早速、儂は明日から関係者に頭出しをしておく。お主らは計画を具体化させて資料にまとめておいてくれ」

「わかりました。戻って今すぐ取りかかります」

二人は魔物対策局に戻ると、深夜まで資料作りに没頭した。

「デスラ殿が乗り気になってくれて良かったですね」

「ああ、後は頭の固い連中を動かすことができれば、魔物とも、ウザったい異世界転生者ともおさらばできる」

資料作成は長時間の作業になったが、二人は全く疲れを感じることがなかった。

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