第11話 俺達の子供

 とある国の端にある小さな村で黒いボロ切れを纏い大鎌を持った男と、長く赤い髪に同じく赤い色の輝きを放つ石があしらわれたチョーカーを首に付け大鎌を持った少女が、村人を手に持った大鎌で斬り付けた。


「ペル様から預かった自律人形は問題なく動作しているな……クルセントルナ!ちゃんと魂の選別をしろよ!」


「分かってますよ?ここでしっかり成果を見せれば何処にでも収穫に行っても良いんですよね?」


「あぁ、問題ない……まさか自律人形が人間の魂を刈り取る役割を与えられる個体が出来るなんてな……流石ペル様の最高傑作といったところだな」


 クルセントルナと呼ばれた少女は吹き出している魂を引き抜き、魂をビンに詰めて懐にしまう。


「この仕事で認められたら直ぐに会いに行きますね?そうしたら私と一つになって愛し合いましょう」


「ほら!回収したのなら帰るぞ!」


 ボロ切れの男の大鎌が虚空を切り裂くと、虚空に黒い亀裂が生じ、ボロ切れの男はその亀裂の中に消えて行った。


「ふふっ。楽しみです!待っていて下さいね?


 言い残す様に赤い髪の少女はそう溢し、ボロ切れの男を追う様に亀裂の中に入って行った。




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 慰霊碑の前で誓いを交わしてから家に帰り、夕飯も入浴も済ませて後は寝るだけとなった。


「じゃあ俺は寝るよ。おやすみ」


「はい。ではお供します」


「ダメです」


「いいえ。ダメです」


 !?。一緒に寝ることをダメって言ったら、ダメって言い返された。


「どうしてダメなの?」


「はい。今日は何もご奉仕していないです」


「……夕飯作ってくれただろ?」


「いいえ。それでは不十分です」


 どうしてなの?一日一奉仕しなきゃ死んじゃう病気なの?


「……一緒に寝るだけでいいの?」


「はい。正直それだけでは不満ですが、ソレイアがそれで良いなら構いません」


「じゃあ隣で寝るだけね?もう一回言うよ!寝るだけだから!」


「はい。寝るだけです。寂しくなったら私のことをなままくらとして使っても構いませんよ?」


「俺の寂しさを紛らわせるために言ってくれてるんだろうけど、生抱き枕って言い方は卑猥だからやめて欲しいなぁ」


「いいえ。服を着てるので卑猥じゃないです。なんなら服を全部脱ぎますか?」


「……服は着てて下さい」


 俺の部屋の二人だと明らかに狭いベッドに二人で仰向けに寝る。いつも通り客室で寝て欲しいと心の中で思った。


「ソレイア。平気ですか?」


 キュリーがこちらに寝返りをうって俺の方を向く。


「何が?」


「はい。実際に慰霊碑を見たのは初めてですよね?ソレイアが落ち込んでいないか確認の為に、こうしていますがご迷惑でしたか?」


「……キュリーって優しいんだな」


「いいえ。ルネを連れて帰る手伝いをすると約束したのでソレイアのメンタル管理も私の役目かと」


「それでも普通はそこまで気付かないよ?それはキュリーが優しいから俺の心まで気遣うことが出来たんだよ」


「……はい。優しいなんて言われたのは初めてです……ありがとうございます」


「じゃあ寝ようか。おやすみ」


「はい。おやすみなさい」




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 翌朝、俺は少し肌寒さを感じて目が覚めた。布団を被っていなかったので、寝てる間に布団を蹴ったらしい。


 でも、それだけじゃない寒さが下の辺りから……。


「ソレイア。おはようございます。」


 俺が視線を下に落とすと、俺のズボンを半分までずり下げた状態でこちらを見ているキュリーと目が合った。


「何してるの?」


「はい。ソレイアの聖剣が苦しそうだったのでご奉仕しようかと思っていました」


「なんで?」


「はい。私は汎用型自律人形ですので」


「……キュリーって愛玩人形とかじゃないよね?」


「はい。汎用型ですので」


「そっかー」


「はい。そうです」


 は、離せ!愛玩人形じゃないならこの手を離すんだ!ていうか力強すぎぃ!パンツ千切れるから!


「手を離してくれ!」


「いいえ。まだご奉仕していません」


「分かったから!一回手を離して!」


「はい。良い心掛けです。では自分で脱いで下さい」


「……脱ぐところ見られるのは恥ずかしいから後ろ見てて」


「はい。見ない様にします」


 キュリーはそう言って後ろを向いてくれた。俺はキュリーが後ろを向いたのを確認し、ズボンを履き直して俺の部屋からこっそりと逃げ出した。


 すると俺が居なくなった部屋からキュリーの声が聞こえる。


「ソレイア。もう良いですか?……逃しません」


 その声が聞こえると同時に俺は外に出て全力疾走で30分くらい逃げ回ったが、キュリーはこのままだと追いつけないと踏んだのか、俺の足首までを氷漬けにした。


 えっ!?そこまでやるの!?ど、どうしよう!


「ソレイア。私を騙して逃げるなんて良い度胸です」


「ここは外だよ!?は、話し合おう!」


「いいえ。問答無用です」


「ちょ!や、やめっ!あーーーっ!」


 俺の断末魔が朝の静けさが残るご近所さんの家まで響き渡った。ごめんなさい。




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「さぁソレイア先輩?私に指導して下さい……そんなに疲れた顔をしてどうしたんですか」


「キュリーに追いかけられて全力で逃げ回ってからの騎士学校の授業でもう疲れてるんだ……今日は辞めないか?」


 結局、逃げ回っているうちに俺の聖剣はヒノキの棒くらいになってしまったのでキュリーが諦めて、朝の追い駆けっこ(捕まったらパンツを剥がれる)は終わったのだった。


「はい。ソレイアが中々出してくれないのです」


「え?ソレイア先輩といつまでシてたんですか?」


「はい。朝起きてから30分後くらいで、しかも外です。そのときにようやく出してくれました」


「ま、まさかの二回戦!?それにお外でなんて……ソレイア先輩ってガチのケダモノですね?」


 後輩ちゃんが家の中のゴ○ブリを見る様な目でこちらを見る。


 ……もう俺はその目には慣れたぞ。でも今回に限っては、あながちそっち系じゃないとは言えないしなぁ。弁明し辛いんです。


「わ、私にそんなことしたら怒りますからね!……あ!本当はして欲しいの裏返しとかじゃ無いですよ?ソレイア先輩は勘違かんちが乙野郎おつやろうなのできちんと釘刺しとかないといつ襲われるか分かったもんじゃ無いですからね!」


 ……ねぇ。何でこの後輩ちゃんは師匠になる人にすぐ毒吐くの?言いたいことしか言ってないよね?


「ソレイア。結局のところ何を教えるのですか?」


 脱線した話を広げることしかしないキュリーが、珍しく話を戻してくれた。


「レルフリシラが何を教えて欲しいかによるな」


「私は、ソレイア先輩みたいにオリジナルの魔法を駆使して戦える様になりたいです!」


 レルフリシラは期待を込めた様な表情でこちらを見る。


「何かオリジナルの魔法は使えるの?」


「考えたことも有りません!」


「よし!じゃあ諦めよう!」


「はい!……はい?」


「え?だってそういうのはパッと思い浮かんだことを使える形に直していく物なんだよ。だから思い浮かばない時点でもう無理だね」


「そ、そんな!じゃあソレイア先輩が一緒に考えてくださいよ!」


「……それは俺のオリジナルの魔法なんじゃ……」


「ゴキブリと同じオリジナル魔法を使ってたら関係を怪しまれるので、ソレイア先輩は一緒に考えた魔法を使わないで下さい!」


 えぇー……中々良い性格してるなぁ。まぁ別に良いけどさ……もうちょっと感謝してくれても良いんじゃない?


「得意な魔法とかってあるの?」


「特にないです」


「じゃあ光魔法でオリジナルの魔法とか作ってみようか」


 俺はそう言って左手で魔法陣を展開してレルフリシラの左手の上に重ねた。


「ひっ!何するつも……」


「そう言うの今はいいから集中!これと同じ魔法陣を作ることに気を使って!」


「は、はいっ!」


 レルフリシラは俺の展開した魔法陣の上に重ねて自分の魔法陣を展開して、魔法陣の差異を少しずつ修正し始めた。


「そこを……そう。上手だ。」


「……」


 俺の展開した魔法陣との差異が殆ど無くなるのに20分程度掛かったが、上手に模倣出来たようだ。


「……うん。綺麗だよ」


「な、何言ってるんですか!」


「?。上手に魔法陣を真似したってことだけど?でもこれでようやくスタートラインだ。今組んだのは自信を不可視化する魔法だけど、今度はこれを対象の物体を透明化させる魔法に少しずつ手を加えて直していくよ」


「え!?まだやるんですか!?今のでも大分疲れたのですけど……」


「ダメ。今の魔法陣を展開しているうちに新しい魔法陣を取り敢えず作ろう!俺もいつまでも付き合うから。さぁ!早く俺たちの新しい子供を作ろう!」


「ひぃっ!け、ケダモノ!」


「ソレイア。その言い方では誤解を生みますよ?」


 ?。キュリーは何を言ってるんだ?俺たちが作った新しい魔法なんて俺たちの子供みたいなものじゃないか。新しい魔法なんて夢があるだろ?だから早く作ろう!


 後輩ちゃんがもう帰りたいっていう様な顔をしているが俺は構わずに新しい魔法の開発に勤しんだ。


 かわいい後輩ちゃんの頼みだからね!仕方ないよね!

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