第10話 誓い

 団体戦の模擬試合の授業を終えて学校から帰ろうと四階から階段を降りる。すると三階に降りたときに声を掛けられた。


「あの!前の首席だったソレイア先輩ですよね?」


「そうだけど?何か用があるの?」


「わ、私はレルフリシラって言います!元首席のソレイア先輩にお願いしたいことがあって……」


 レルフリシラは恥ずかしそうに下を向く。


 その様子を見たキュリーが俺の肩を叩き自分の方に振り返らせた。


「ソレイア。ここは男を見せましょう。彼女の勇気を汲み取ってあげて下さい」


「え?どういうこと?ま、まさか!」


「はい。そういうことです」


 告白!?一年も騎士学校に来ていなかったから、また学校から居なくなると思って今のうちに俺に告白しに来たとか!?


「レルフリシラだったよね?君の気持ちは嬉しいよ」


 キュリーほどじゃ無いとは言え、この後輩ちゃんも十分にかわいい見た目をしていた。薄茶色の髪にくりくりした目、背はかなり小さいので小動物……具体的に言うと全体的な色も相まってリスみたいな子だった。


「え!?じゃ、じゃあ!」


「でもごめんね。君のことはまだよく知らないから付き合えないや」


「そ、そんな!じゃあ私はどうしたら良いんですか!?」


「まずはお友達からってことでどうかな?」


「?。お友達から……ですか?」


「そうだよ。まずはお友達から始めてお互いのことを知っていこう。そうやってお互いを知って行くことが恋人への近道かも知れないよ?」


 俺はレルフリシラを諭す様にそう話した。


「え?」


「え?」


 レルフリシラの予想外といった返事は、俺にとっても予想外だった。


「お、俺と恋人になりたいんじゃないの?」


「いえ。ソレイア先輩のことは尊敬してますけど恋人になりたいなんて思ってないです」


「じゃ、じゃあ恥ずかしそうに何を言おうとしてたの?」


「私もいつか首席になりたいので、元首席のソレイア先輩に指導して頂こうかと……」


 う、嘘だろ!もしかして、ただの頭がおかしい恥ずかしいやつって思われた!?


「あ、因みに横にいるソレイア先輩のお人形さんにしている様な指導じゃ無いですよ?それに、私なんかが鬼畜で卑劣な生ゴミみたいなソレイア先輩と恋人同士になるなんて……恐れ多いですよ」


 もっと酷い奴って思われたみたいだ。


「……ねぇ?尊敬って言葉を調べたことはある?」


 この子は本当に人に教えを請う気があるのだろうか?


「ソレイア。どうするのですか?」


「……別に教えるのは構わないけど俺から教えることなんて何も新しいことなんて無いぞ?基本的に騎士学校で教えてもらうことの踏襲でしかないしな。それでも良いなら教えてあげても良いけど?」


「本当ですか!?じゃあ明日からでもお願いしますねソレイア先輩」


 俺からの指導の約束を取り付けて満足したのか、レルフリシラは伝えたいことを伝えたらすぐに階段を降りて行った。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 騎士学校からの帰り道に俺とキュリーはベルードさんに会う為に街の警備隊の詰所に向かった。


「お!ソレイア!騎士学校の制服を着てるってことは学校にもう一度行き始めたんだな」


「はい。色々とお世話になりました」


「気にすんな。何でもできる後輩の滅多にない緊急事態に助けを出せたのは俺の誇りだよ。そうだな……立ち直ったなら教えても良いか、ソレイアの家の近くの広場に一年前に亡くなった人達の慰霊碑があるから、おじさん達のお参りをしてやりな」


「はい。行ってみます……そうだ!そのことに関してなんですけど!」


「なにかあるのか?」


「髪が白くなっている人達は死んでいないかも知れないんです!なのでしっかりと確認してから弔ってあげて下さい!」


 重要な情報だと思うことをベルードさんに話したが、特に驚いた様子は見られなかった。


「あぁ。みんな知ってるよ。魔法を使える医者が魔法を使って死亡を確認してから弔ってるよ。まだ生きているって判断された人は街の至る所の教会に安置されてるよ。」


「そうですか……任せて下さい!俺が時間が掛かってもなんとかしてみせます!」


「?。なんのことだか分からんがお前ならできるさ。ただ、一人で気負うなよ?」


「はい!ではまた!」


 俺とキュリーはお辞儀をして警備隊の詰所を後にして慰霊碑のある広場に向かった。


 そして慰霊碑の中に父さんと母さんの名前があるのを確認して改めて、父さん達は遠い存在になってしまった現実を突きつけられた気がした。


「父さん。母さん……改めてここで誓うよ。俺がルネを必ずこの街に連れて帰るよ」


 俺が慰霊碑の前で目を閉じ、手を合わせて宣誓をする。


「はい。ソレイアだけでなく私もお手伝いします。なので心配しないで下さい」


 キュリーも慰霊碑に向かってお辞儀をする。


「……ありがとう。多分父さんと母さんもキュリーにそう言われて嬉しいと思っているよ」


「はい。ご両親への報告は大事ですので」


「うん。別な意味に聞こえるけど今は本当にありがとうって言っておくよ」


「はい。どういたしまして」


 俺とキュリーは日が沈みかけて、青黒く染まった空の下の慰霊碑の前で誓いを交わした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る