第852話 残された手段

『くたばれ!!』

「アギャアアアアアッ!?」

「きゅろろっ!?」

「クロミン!?サンちゃん!?」



クロミンと彼の背中に乗り込んでいたサンの元に漆黒の刃が放たれ、斬られた瞬間に血飛沫が舞い上がり、クロミンは倒れ込む。その様子を見ていたリル達はすぐに助けに向かおうとしたが、バッシュがその前に鬼王を構え直す。



『もう手加減抜きだ……これで終わらせてやる』

「何をする気だ!?」

「いけない……皆、下がるんだ!!」



鬼王を横向きに構えたバッシュを見て只事ではないと感じたシュンは地面に視線を向け、先ほどレアが落としたフラガラッハとアスカロンに気付く。


彼は咄嗟にバッシュの行動を止めるために動き出し、落ちていたアスカロンを拾い上げる。元々シュンもデュランダルとフラガラッハは身に付けていたが、彼は両手にデュランダルとアスカロンを握りしめると、同時に能力を発動させた。



(頼む、僕に力を貸してくれ!!)



剣の勇者の能力の一つとして彼は刀剣の類の武器ならば全ての力を使いこなせる。この能力で本来の聖剣の所有者でなくともシュンは聖剣の能力を引き出せる。



『回転刃!!』

「うおおおおっ!!」



戦技を発動させようとしたバッシュに対してシュンは3つの聖剣の能力を発揮させ、渾身の一撃を繰り出す。デュランダルの「衝撃」とアスカロンの「切断力」とフラガラッハの「攻撃力強化」の能力を利用し、彼は過去最大の一撃を繰り出す。


しかし、そんなシュンの全力の一撃に対してバッシュは鬼王で正面から弾き返し、逆にシュンを吹き飛ばす。彼は王城を取り囲む城壁まで吹き飛ばされ、この際に聖剣を落としてしまう。



「ぐはぁあああっ!?」

「シュン!?」

「そんな、また勇者様が……!!」

『ちぃっ……仕留めそこなったか、忌々しい』



吹き飛んだシュンを見てシゲルは驚き、オウソウは愕然とするが、バッシュ本人もシュンの行動は予想外だった。彼は本来ならばこの場に存在する全員を仕留めるつもりで放った一撃だったが、それをシュンに阻止されてしまった。


シュンが自らを犠牲にしてバッシュの攻撃を防いだ形だが、これで更に戦力が失われ、もうまともに戦えるのは拳の勇者のシゲルだけである。だが、シゲルはバッシュに近付こうとしても彼を守るように取り囲む黒炎によって邪魔をされる。



『ガアアアッ……!!』

「くそ、何なんだよこの炎は……これじゃあ、近づけねえだろっ!?」

「鬱陶しい……掻き消してやるわ!!」



カレハは芭蕉扇を振りかざし、黒炎を吹き飛ばそうとしたがその前にバッシュが鬼王を構え、今度は上段に構えた。



『これで終わりだ……この地ごと消えてなくなれ!!』

「い、いかん!!また何か仕出かす気か!?」

「くそ、どうすれば……」

「諦めるな!!最後まで戦えっ!!」



再び途轍もない攻撃を繰り出そうとするバッシュに対してリルは皆に声をかけ、最後の一瞬まで諦めない様に促す。その声を耳にしたレアは虚ろ気な視線で両腕に視線を向ける。


腕が切り裂かれてはもうレアは文字変換の能力は扱えず、諦めるしかないと思った。だが、この時に彼はある事を思い出す。それは今まで文字変換を発動させるときに利用していたのは「指」である事だった。



(指……文字……解析……)



まるで走馬灯のようにレアの脳内にこれまでの出来事が思い返し、今まで能力を扱った瞬間を思い出す。そしてレアはある考えへと至り、自分の靴に視線を向けた。



(これだ!!)



両腕がないのでレアは自分の足だけで靴を脱ぎ、その後に靴下を脱ぎ去る。唐突なレアの行動に他の者は呆気に取られるが、レア自身は真面目であった。



(早く、早くしないと……)



バッシュが攻撃を繰り出す前にレアはどうにか片方の靴下を脱ぐ事に成功すると、ここでバッシュの手にした鬼王に再び漆黒の刃が形成され、今度は城を破壊した時と同等の大きさまで拡大化した。


これでは剣を振り下ろすだけでバッシュの正面に存在する者達は押し潰され、もう逃げる時間はない。だが、靴下を脱いだレアはバッシュの手にする鬼王に視線を向け、しっかりと視界に収める。




『これで終わりだ……滅びろ、勇者ぁあああっ!!』

『っ……!?』



遂にバッシュが鬼王を振り下ろす寸前、誰もが諦めかけた瞬間にバッシュの手にしていた鬼王に異変が生じる。攻撃が繰り出される寸前に鬼王が光り輝き、やがて漆黒の刃が縮小化すると、バッシュの手元にはあり得ない武器に変化していた。



『なあっ……!?』

『ガアッ……!?』



バッシュが握りしめていたはずの鬼王は消え去り、代わりに彼の手に握られていたのは「十手」だった。唐突に武器が変化した事にバッシュは唖然とするが、すぐに彼は心当たりを思い出してレアの方に視線を向ける。



『まさか……貴様の仕業かぁっ!?』

「ははっ……やってみるもんだな」

「レア君!?君はまさか……」

「あ、足の指で文字を!?」



全員がレアに視線を向けると、そこには足の親指を伸ばした状態のレアが存在し、あろう事か彼は足の指を利用して文字変換の能力を発動させた事が判明した――

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