第851話 腕がなくとも……
「がぁああああっ!?」
「レア君!?くそっ、消えろ……」
「駄目です、リル殿!!」
「触れたら貴方にも黒炎が……!!」
両腕の黒炎が徐々に広がっていく光景を見てリルは炎を消そうと手を伸ばすが、それに対してリドとライオネルが引き留める。黒炎に触れれば掻き消すには水属性の魔法で鎮火するか、聖属性の魔法で浄化するしかない。
しかし、この場には水属性の魔法の使い手は存在せず、聖属性の魔法を扱えるネコミンも先ほど吹き飛ばされた。彼女が無事だとしても黒炎を掻き消す程の魔法を使える可能性は低く、もうレアを助ける手段は彼の両腕を切り裂くしかなかった。
「ぐううっ……シュン、たの……むっ!!」
「霧崎君!?」
「早く……腕をっ!!」
「駄目だ、レア君!?そんな事をすれば君はもう……!!」
レアはシュンに視線を向け、両腕を伸ばす。その行動にリルは止めようとするが、シュンの方も躊躇する。しかし、ここで彼を救うには腕を切るしかない事は誰の目から見ても明白だった。
「剣の勇者殿!!どうかレア殿を救ってくだされ!!」
「シュン!!」
「シュン殿……やってくれ!!」
「くっ……すまない!!」
「ああああっ!?」
シュンは皆の声を聞いて彼は聖剣を振り上げ、レアの両腕に刃を振り抜く。血飛沫が舞い上がり、レアの身体を焼き尽くそうと広がっていた黒炎を腕ごと切り離す。
腕を斬られたレアはその場で倒れ込み、その姿を見てリルはライオネルとリドを振り払うと、彼の元へ急ぐ。傷口を確認して彼女は歯を食いしばり、レアの身体を抱き上げる。
「レア君!!しっかりしろ……すまない、私のせいで!!」
「……平気、だよ」
「馬鹿野郎、平気なはずがあるか!!」
「すぐに治療を……おい、誰か回復薬は持っていないのか!?聖水でも構わん!!」
『……そこまでだ』
レアの治療を行おうとした瞬間、ここでバッシュが動き出し、彼は再び大剣を巨大化させた状態で構えていた。上段から振り下ろしてレアを切り裂こうとしているのか、バッシュは気合の雄叫びを上げる。
『はあああああっ!!』
「いかん、勇者殿!!」
「させるか!!」
「くそったれがっ!!」
負傷したレアとそれを抱えるリルを庇うためにカレハ、シュン、シゲルが動き出すが、彼等よりも前にバッシュの元へと迫る影が存在した。
「クロミン、行けぇっ!!」
「グガァアアアアアッ!!」
『何っ……!?』
何処からかサンの声が響き渡ると、唐突にバッシュの上空に巨大生物が出現すると、彼の刃に噛みついて抑え込む。突如として現れた謎の生物にバッシュだけではなく、他の者達も唖然とした。
――バッシュの魔剣を抑え込んだのは変身して戻ったクロミンであり、事前に彼はバッシュとの戦闘前にレアの文字変換の能力によって姿を変えていた。しかし、現在の彼は「下位竜種」の牙竜ではなく、更に上位の存在へと変貌していた。
クロミンの詳細画面に改竄を加える際にレアは彼を「下位竜種」ではなく、上位互換の「上位竜種」と書き換えた。これによってクロミンはより進化した存在へと変化を果たし、牙竜の上位種である「牙龍」へと変化を果たす。
「グゥウウウウッ……!!」
『竜種だと……こんな奴まで用意していたか!!』
「クロミン、頑張れ!!負けるな!!」
上位竜種に進化したクロミンの力は下位竜種だった頃と比べ物にならず、その力は火竜をも上回る。圧倒的な力を誇ったバッシュでさえも抑え込まれ、徐々に後退る。
「あ、あれがクロミン……だと!?どう見ても竜種ではないか!!」
「そんな事はどうでもいい!!それよりも奴の動きが止まった、仕掛けるなら今しかあるまい!!」
「その通りだ!!今なら殴り放題だ!!」
「ここで……終わらせるんだ!!」
クロミンの加勢によって状況は一変し、彼が魔剣を抑え込んでいる間に他の者達も動き出す。レアの両腕が斬られた以上はもう彼の力には頼れず、ならば残されたのは自分達の力で倒すしかない。
全員がバッシュの元へ駆け出して剣を振りかざし、攻撃を仕掛けようとした瞬間、この時にレアの両腕に纏わりついていた黒炎が動き出し、他の者よりも早くにバッシュの元へ向かう。
『マオ、サマァッ……!!』
「うおっ!?」
「ぐわっ!?」
「こ、こいつ……まだ意識があるのか!?」
『ジャン、お前……!?』
身体が黒炎と化してもジャンの意識は残っており、バッシュに迫る者達を遮るように黒炎はバッシュの周囲を取り囲む。この際に黒炎は変身したクロミンにも襲い掛かり、身体を焼く。
『ウガァアアアッ!!』
「アガァッ!?」
「クロミン!?」
身体に纏わりついてきた黒炎のせいでクロミンはあまりの熱に口元で抑え込んでいた漆黒の刃から離れてしまい、その隙を逃さずにバッシュは剣を振り抜く。
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