第850話 封じられた両腕
『愚か者の共が……雑魚がどれだけ集まろうと、我等の敵ではない』
「ほう、そういう割にはあまり余裕がなさそうに見えるが?」
「そんなペットの蛇に頼る辺り、追い詰められているのはどっちなんですかね?」
『何だと……!!』
リルとリリスの言葉を聞いたバッシュは威圧感を強め、刀身に纏った黒炎の大蛇が再び火力を増す。その光景を見たリリスは考え込み、レアに告げた。
「レアさん、今こそあの聖剣の出番ですよ!!!」
「えっ!?でも、あれは止めを刺す時に使った方がいいって……」
「もう奴も余裕はありません!!自分の部下に頼る程度には弱っているはずです!!」
『己……我等を愚弄するか、小娘がっ!!』
レアはリリスの言葉を聞いて驚くが、それに対してバッシュは我慢ならないとばかりにリリスに鬼王を構え、刀身を再び巨大化させた。
刃が何十倍にも膨れ上がった漆黒の刃を見てレア達は唖然とするが、バッシュはリリスに目掛けて刃を振り払う。それに対してリリスを守るためにそれぞれが動き出す。
『死ねぇっ!!』
「うわわっ!?」
「リリス!!」
「くっ!!」
「させないでござるっ!!」
聖剣を所持しているチイ、ハンゾウ、ネコミンがリリスの前に出ると、迫りくる漆黒の刃を受け止めた。だが、あまりにも力が強すぎて3人も逆に押し返されてしまう。
『その程度で抑えきれると思ったか、小娘共!!』
「うぐぐっ!?」
「だ、駄目でござる……これ以上は抑えきれなっ……!?」
「リリス、逃げて……にゃうっ!?」
「わああっ!?」
刃を抑えきれずにリリス達は派手に吹き飛び、彼女達は地面に倒れ込む。聖剣を所有していたチイ達でさえも攻撃を受けるのが精いっぱいであり、まだまバッシュは余力を残していた。
ここまでの戦闘でバッシュも相当な魔力を消耗しているはずだがまだ魔力が尽きる様子がなく、このままではレア達の方が耐え切れない。だが、ここでリルは剣を抜くとバッシュの元へ向かう。
「よくも私の配下を……許さんっ!!」
「リルさん!?」
「だ、駄目だ!!そんな剣では……」
『ふんっ……失せろっ!!』
妖刀を失ったリルは普通の剣でしか戦う手段はなく、彼女は正面からバッシュに挑んだが、そんな彼女に対して巨大化した剣を振り下ろす。その光景を見たレアは彼女を庇うために二つの剣の刃を重ね合わせ、リルの前に出た。
「くぅっ!?」
「レア君!?」
『愚かな……その女を庇うか!!』
この状況では最も戦力となるはずのレアがリリスを守るために前に出てきた事にバッシュは罵倒し、彼は容赦なく刃を叩き込む。あまりに圧倒的な力にレアは押し潰されそうになるが、どうにか食い止める。
レアが刃を受け止めた事でリルは切り裂かれる事はなかったが、代わりに刃を受け止めたレアの肉体に衝撃が走り、剣を握りしめていた両腕に激痛が走る。攻撃を防ぐ事には成功したが、衝撃を受けた腕は折れてしまい、武器を落としてしまう。
「ぐああっ……!?」
「レア君、大丈夫か!?」
「う、腕が……!?」
『……これで頼みの能力は使えなくなったようだな』
両腕を負傷したレアはまともに指を動かす事も出来ず、その様子を見てバッシュはもうレアが「文字変換」の能力を扱えないと悟る。文字変換の能力を発動するには必ず指を動かす動作が必要のため、これでレアは能力を封じられた。
能力が使えなければステータス画面や解析を発動させて詳細画面を開いたところで文字変換を利用した改竄は行えず、もう誰の怪我も治す事も聖剣や他の兵器を作り出す事も出来ない。
『見損なったぞ、解析の勇者……貴様は一番に期待していたんだがな』
「な、何を言ってやがる!!そんな腕、すぐに治せば……」
「いや、駄目だ……レア君の腕を見るんだ!!」
いくら両腕が負傷したとしても、回復薬や回復魔法の類で治せば怪我ぐらいは治せるとシゲルは言い返そうとしたが、シュンが何かに気付いたようにレアを指差す。
全員がレアの両腕に視線を向けると、いつの間にか漆黒の刃に纏っていた黒炎が腕に纏わりついており、肉体を燃やそうと広がり始めた。
「ぐあああっ!?」
『アガァアアアッ!!』
「なっ!?これは……レア君、しっかりしろ!!」
「そんな……くそ、早く炎を消せ!!」
「水属性の魔法を使える者はおらんのか!?」
両腕に分裂した黒炎の大蛇が纏わりついたレアは悲鳴を上げ、腕が黒焦げと化してしまう。このままでは身体全体に炎が広がり始めると思われた時、カレハはリルに告げた。
「リル殿!!勇者殿の腕を切り落とせ!!」
「なっ!?」
「それしか方法はない!!」
「ま、待てよ!!それをしたらもうあいつは……」
レアの両腕を切り落とせという言葉にリルは硬直し、仮にこのまま両腕を切り落とさなければレアの命は助からない。だが、両腕を切り裂けばもう二度とレアは両手の指を利用して能力を扱う事は出来なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます