第849話 激戦

「はあああっ!!」

『ぐぅっ、このっ……』

「まだまだぁっ!!」



フラガラッハとアスカロンが切り付けられる度にバッシュが纏う鎧に衝撃が走り、全体に罅割れが生じ始めた。アスカロンは切断力という点では全ての聖剣の中でもトップクラスを誇り、更にフラガラッハによって限界まで身体強化したレアの攻撃は凄まじかった。


バッシュも反撃を繰り出そうとするが、先ほどのヒナの広域魔法とサンが構えた電灯によって体内の魔力が搔き乱され、思う様に動けない。この状況下で更に鎧を破壊すれば彼は直に光を浴びてしまい、そうなれば死霊人形と言えども浄化は免れない。



(広域魔法の効果が続く間に鎧を破壊しないと!!)



広域魔法を展開しているヒナの援護は期待できず、魔法が発動させている間は彼女も動く事が出来ない。それほどまでに広域魔法は精神力を必要とする魔法であるため、この戦闘においてはヒナの手助けは期待できない。



『馬鹿な、この俺が……この程度の奴等に!?』

「この程度だと?はっ、何代前の先輩だから知らないけどな……俺達だって勇者なんだよ!!」

「終わりだ、バッシュ!!」

「うおおおっ!!」



バッシュに対してシゲル、シュン、レアは渾身の一撃を繰り出すと、バッシュの身に付けている鎧に遂に大きな亀裂が走り、あと少しで崩壊しかけた時、ここで彼の手にした鬼王に異変が生じた。



『アガァアアアッ!!』

「なっ!?」

「何だっ!?」

「炎……!?」



鬼王から唐突に黒炎が発生すると、刃全体に纏わり、形状を変化させてやがて大蛇のように変化を果たす。その光景を見たレア達は嫌な予感を覚え、距離を取った。



『ジャン、お前……まだ意識があったのか』

『アアアッ……マオウ、サマ……マモル、ワレハ……』

『ジャン……貴様の力、借りるぞ!!』



バッシュは黒炎に変わり果てて鬼王に吸収されながらも自分の力になろうとするジャンの姿を見て、彼の意思を汲み取って彼の力を使う。


刀身に黒炎の大蛇を纏わせたバッシュは刃を振りかざすと、黒炎の大蛇がレア達の元へと迫り、予想も出来ない不規則な軌道で襲い掛かった。



「うおっ!?」

「な、何だこれは!!」

「くっ……アカ、サンを連れて逃げろ!!」

「シャアアッ!?」

「きゅろっ!?」



レアの命令を受けて慌ててアカはサンを乗せてその場を離れ、この際にサンは電灯を落としてしまう。電灯は地面に落ちた際に壊れてしまい、これによってバッシュを弱体化させる術の一つを失う。



『その厄介な道具さえなければ……貴様等如きに遅れは取らん!!』

「畜生、卑怯だぞ!!こんな技が使えるなんて聞いてないぞ!!」

「くっ……気を付けるんだ!!この炎に触れたら終わりだ、一か所でも触れたらそこから炎が燃え広がるぞ!!」



魔剣カグツチを使用していたシュンは「黒炎」の恐ろしさはよく承知しており、彼は黒炎の大蛇に触れないように注意する。しかし、大蛇は徐々に大きくなっていき、ついにはレア達を飲み込もうと顎を開く。



『アガァアアアッ!!』

「ま、まずい!!」

「くそ、下がるんだ二人とも!!ここは僕が……」

「シュン君!?」



迫りくる大蛇の頭に対してシュンはレアとシゲルを守ろうと両腕を広げるが、そんな彼の頭上に青色の光線が通過すると、迫りくる大蛇の頭を吹き飛ばす。



「魔導大砲発射ぁああっ!!」

『ガハァアアアッ!?』

『なっ……馬鹿なっ!?』



何処からか聞き覚えのある声が響き渡ると、今にもレア達を飲み込もうとしていた黒炎の大蛇の頭が吹き飛び、何事かとレア達は青色の光線が発射された方向に視線を向ける。


そこには荷車に乗せた魔導大砲を構えるリリスの姿が存在し、彼女の傍にはリル、チイ、ハンゾウ、そしてネコミンの姿も存在した。彼女達だけではなく、他にも大将軍のライオネルや白狼騎士団のオウソウ、更には森の民であるカレハやリドを筆頭とした戦士長たちも立っていた。



「皆、どうしてここに……」

「すまない、レア君……作戦では合図があれば駆けつける様に言われたが、どうにも嫌な予感がしてね」

「我々も一緒に戦うぞ!!」

「死ぬときは一緒でござる!!」

「それは嫌、皆で生きて勝って祝杯を挙げる」

「仕方ありませんね、私もそろそろ本気を出すとしますか!!」



作戦の予定ではレア達はバッシュを追い詰めた際、他の皆も呼び寄せる段取りではあったが、この状況下では他の者達も待機してはいられず、駆けつけてきたらしい。



「ここは我等の国だ!!勇者殿ばかりに迷惑を掛けられん!!」

「その通りだ!!」

「我等も同様、勇者様を見捨てたとあれば末代までの恥……皆の者、勇者様の盾となれ!!」

『うおおおおっ!!』



遂に王城にケモノ王国の猛者たちが勢揃いすると、その光景を目にしたバッシュは自分が追いつめられているにも関わらず、不遜な態度で言い放つ。

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