第848話 奇策
「――太陽の光を生み出す電灯?そんなのがあるんですか?」
「うん、前にテレビで言ってたんだけど、電灯の中には太陽の光に近い性質の光を放つ電灯もあるって」
「なるほど、それを利用するつもりですか」
時は少し前に遡り、剣の魔王との決戦に備えてレアはリリスに相談を行う。その内容は地球に存在する太陽光に近い光を放つ電灯を利用すれば、死霊であるバッシュを弱体化できるのではないかという話だった。
実際に地球で製造されている電灯の中には太陽光に近い光を放つ物も存在する。そして死霊やアンデッドの類が日中の間は活動が鈍るという話を思い出し、もしも彼等が太陽光を苦手とする存在ならば太陽光に近い性質を持つ光を浴びたら弱体化するのではないか、そう考えたレアは相談を行う。
「太陽光に近い光を放つ電灯でバッシュを照らし、弱体化させる……確かに突拍子もない作戦のように思えますけど、それが成功すればかなり有利に立てますね」
「そう、だけど俺達は戦う事で精一杯だから電灯で照らす余裕はないと思う」
「なるほど、だからサン達に任せるんですね。この中ではサンが一番魔物を乗りこなせますからね」
「きゅろろっ!!アカ、発進!!」
「ガウッ!!」
アカに乗り込んだサンは彼を走らせ、器用に乗りこなす。元々は魔物であるサンは他の魔物と心を通じ合う事が得意であり、アカもあっさりとサンに心を許す。
火竜のアカを乗りこなせるのはサンしかおらず、仮に電灯で敵を照らすのならば空を飛べるアカを乗りこなすサンが一番だった。サンが電灯を扱い、バッシュを照らす事が出来ればレア達も有利に動ける。
「確かにやってみる価値はあるかもしれません……でも、失敗したら大変な事になりますよ」
「借りに失敗しても電灯で目を眩ませる事が出来れば十分だよ。それにその後、他にやる事があるんだ」
「やる事?」
レアはとある方向に視線を向け、そこにはサンとアカの後を追いかけるとある人物、というよりも生物が存在した――
『――がああっ!?馬鹿な、力が……抜ける!?』
「はっ、どうした!?魔王を名乗ってくる癖に情けない声を出しやがってよぉっ!!」
サンが手にした電灯の光を浴びた瞬間にバッシュは苦しみはじめ、太陽光に近い性質の光を浴びた途端、彼の身体の闇属性の魔力が搔き乱され、力を失っていく。
その隙を逃さずにシゲルはフラガラッハに力を込めて無理やりに振りほどくと、レアとシュンも大剣を弾き返してバッシュの元へ向かう。
「行くよ、シュン君!!」
「ああ、分かっている!!」
「くたばれ!!」
『ぐうっ……!?』
シュンはデュランダルを振りかざし、レアはアスカロンを構え、シゲルは闘拳を装着した右拳に力を込める。攻撃が来ると予想したバッシュは防御の体勢に入ろうとしたが、その前に3人の攻撃が当たった。
「大回転斬り!!」
「疾風突き!!」
「だああっ!!」
『ぐはぁっ!?』
大剣を全力で振り回したシュンの斬撃、疾風の如く繰り出された茂の拳、そして渾身の力を込めたレアの突きがバッシュの肉体に叩き込まれ、彼の身に付けている鎧に亀裂が生じた。
いくら頑丈な鎧とはいえ、3人の勇者の攻撃を受けて無事なはずがなく、バッシュは膝を着く。その様子を見てレア達は一旦距離を取ると、電灯で上空から照らしていたサンとアカも地上へ降り立つ。
「きゅろっ!!」
「シャアアッ!!」
「二人とも助かったよ!!後でいっぱい褒めてあげるからね!!」
レアは窮地を救ってくれた二人に声をかけると、サンは右腕を突き出して親指を立てる。その様子を見ていたバッシュはサンが手にした電灯に視線を向け、戸惑う。
『何だ、それは……!?』
「おいおい、知らないわけはないだろ?てめえも元は勇者なら地球の電灯ぐらいは見た事があるだろ!!」
『電灯だと……そんな物でこの俺を……!?』
電灯の光によって自分の肉体が弱体化した事にバッシュは信じられず、彼の誇りが傷つけられてしまう。その様子を見て精神面に動揺を見せたバッシュに対し、今が仕掛ける好機と判断してレアはフラガラッハとアスカロンを握りしめる。
「うおおおっ!!」
『ぐううっ……図に乗るな!!』
「その台詞は聞き飽きたぜ!!」
「僕達もいる事を忘れるな!!」
正面から迫ってきたレアに対してバッシュは鬼王を振りかざすが、それに対してシュンとシゲルも動き出し、左右からバッシュに対して攻撃を繰り出す。
迫りくるレアに対してバッシュが鬼王で斬りつける前にシュンはデュランダルで受け止め、シゲルは刃の側面に闘拳を叩き込む。
『ぬうっ……!?』
「「行けぇっ!!」」
「二人とも……ありがとう!!」
シュンとシゲルの援護によってレアはバッシュの懐に潜り込むと、手にしていた両手の聖剣を振りかざし、無我夢中に切り裂く。先ほどの電灯の光で更に弱体化したバッシュの肉体に向けて聖剣の刃を何度も叩き込む。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます