第846話 数百年も待ち望んだ戦い
――剣の魔王バッシュは半ば壊れた玉座の上に座り込み、ここへ訪れるであろう勇者達を待ち望んでいた。そして彼は王城に近付いてくる気配を感じ取り、その中でも最も大きな力を感じさせる存在に気付く。
『……来たか、勇者よ』
「どうも……あんたが剣の魔王さん?」
バッシュは顔を上げると、そこには3人の少年が立っていた。少年達は各々が聖剣を所有しており、本来ならば世界に一つしかないはずの聖剣を複数所持している事に対し、バッシュは報告に聞いていた解析の勇者が現れた事を悟る。
少年の中でも特に顔立ちが整い、一見すると少女にも見えなくもない少年こそが噂に聞く解析の勇者だとバッシュはすぐに気づいた。噂通りの外見をしており、見た目は全く強そうに見えないが、その身体から放たれる気配はバッシュが過去に対峙した勇者達の誰よりも大きな力を感じられた。
『そうか、お前が解析の勇者か』
「そういうあんたは……何の勇者だったんだ?」
『ふっ……忘れたよ』
レアの質問はバッシュは元々は勇者であり、国を裏切って魔王という存在に変わり果てた事を案に告げていた。ならばバッシュも何らかの称号を持っているはずだが、本人は答えるつもりはないらしい。
最も剣の魔王を名乗るほどなのだから「剣の勇者」である事は明白であり、この時代に召喚された剣の勇者のシュンは彼を見て嫌悪感を抱く。
「どうして……どうして人間を裏切ったんだ!!何故、勇者でありながらこんな事を……」
『お前は……そうか、ホムラも死んだか』
「そうだ!!僕はホムラなんかじゃない、勇者だ!!剣の勇者、シュンだ!!」
「お前が親玉か!!じゃあ、お前を倒せばこの世界はハッピーエンドというわけだ!!」
レアの隣にシゲルとシュンも移動して各々の武器を構えると、それに対してバッシュは玉座から立ち上がり、彼等が自分と戦うのに相応しい存在なのかを試すため、剣を構えた。
『くだらぬ問答はここまでだ。貴様等も俺を倒しに来たのだろう?ならば、ここから先は剣で語り合おう』
「やっぱりそう来るか……なら、こっちからいかせてもらうぞ!!」
バッシュの言葉を聞いたレアは懐に手を伸ばし、その様子を見て隠し武器でも持っていたのかと思ったバッシュだったが、彼が取り出したのは筒状の道具だった。それを見たバッシュは疑問を抱くが、レアはそれを天に向けて構えた。
自分に対してではなく、空に向けて筒状の道具を構えたレアにバッシュは意表を突かれるが、直後にレアが手にしていた筒から爆音が鳴り響き、上空に向けて火の玉が上がる。その光景を目にしたバッシュは呆気にとられる。
『……花火?』
「これが……開戦の狼煙だ!!」
レアが取り出した魔道具はただの花火を打ち出すためだけに作り出された魔道具であり、上空に派手な花火が打ち上がった。その様子を見ていたバッシュは何のつもりかと思ったが、直後に異変が発生した。
王城から離れた場所から光の柱が誕生し、その光の柱から巨大な光球が作り出される。これは浄化魔法の一種であり、聖なる光を降り注ぐ聖属性の広域魔法であった。
――サンシャイン!!
ここには存在しないはずのヒナの声が聞こえたような感覚に襲われ、空に打ち上げられた光球を確認してバッシュは自分の肉体の変化に気付く。聖属性で構成された光球の光を浴びた途端にバッシュの肉体から黒い煙のような物が上がる。
『ぐうっ……!?』
「どうだ、うちのおてんば娘の魔法は効いたか!?」
「よし、今だ!!」
「うおおおおおっ!!」
ヒナの浄化魔法によってバッシュの肉体に宿る闇属性の魔力が弱まり、その隙を逃さずに3人は動き出す。まずはシゲルとシュンが突っ込み、二人は拳と剣の刃を繰り出す。
「刺突!!」
「正拳!!」
『ぐうっ!?』
隙を生み出したバッシュの胴体に剣と拳が同時に繰り出され、巨体が後方へと押し込まれる。破壊までには至らなかったが仰け反らせる事には成功し、更にその後にレアが続く。
「二人とも下がって!!喰らえっ!!」
『ぐおっ!?』
シュンとシゲルが下がると、即座にレアはフラガラッハとアスカロンを引き抜き、この世界に来たばかりの頃にレアが愛用していた二つの聖剣の刃がバッシュの肉体に刻みつける。
バッシュが装着している鎧は以前にギガンが装備していた物と同じだが、デュランダルなどの攻撃を受けても耐え切れる素材だったが、アスカロンの切断力ならば鎧を削れるほどの傷が与えられることが発覚した。更にフラガラッハの攻撃力を強化させ、次々と連撃を繰り出す。
「うおおおっ!!」
『ぐぐっ……図に乗るな!!』
「それはてめえだ!!」
『ぬぐぅっ!?』
自分に切りかかるレアに対してバッシュは鬼王を振りかざそうとしたが、その前にシゲルが動き出し、彼の顔面に蹴りを叩き込む。その間にもシュンは移動を行い、彼もデュランダルを繰り出す。
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